見出し画像

市会議員

 変な夢を見た。
 夢は大概変なものであるのが定番だが、夢を見ること自体が久々だったその夢は、大学入試の当日に寝坊してしまったくらい嫌な焦りを感じるものだった。しかし朝目覚めたときには夢を見たことをすっかり忘れてしまっていた。

 朝の寒空の下、最寄駅のペデストリアンデッキの上で、ノボリを立てて議会報告のチラシを配っている市会議員を見て思い出した。
 そうだ、夢の中で私は市会議員だった。
 正確に言うと、そう言えば市会議員なのだったと、ふと思い出してしまったサラリーマンだった。市会議員だったことを思い出した瞬間に、少しずつ少しずつ不安が襲ってくる。
 いつから議会に行って無かったのか、そもそも議会はいつやるのか。議会となれば何か質問をしなきゃならないのだろうけれど、まだ何も考えていない。だいたい議員の仕事って何だっけ。さっき一回目覚めたときに日曜日だったことに安心したけれど、議員には休みも何も無いのではないか。
 議会には一度も行っていないけれど、確か安くはない報酬が振り込まれていたのを確認した覚えがある。こんなお金を貰っておいて何もしなくても誰にも何も言われないなんて、議員は一度やったらやめられないものだと言うけれど本当だな。とはいえ、このままではさすがにマズイ。市民からも突き上げを喰らうはずだ。
 でも、どうしたら良いかを誰に聞けばいいんだ。

 なんてのんびりと天井を見ながら考えていて、同時に得も言われぬ不安が募って押し潰されそうになっている。


 いつもの時間に目覚まし時計が鳴り、ベッドサイドのスタンドを点ける。きっと眠っている間に少しまぶたを開けているのだろう、いつも寝起きは妙に目が乾いた感じがするので、眠い目にドライアイ用の目薬をさす。
 リビングに降りると、テレビのニュースで海外在住の国会議員に招状か出されたと報じている。このニュースそう言えば、昨晩にスマホのネットニュースでも見たなと思いながら朝食のフルグラに牛乳を掛ける。

 「おはようございます。いってらっしゃい!」
 寒さを微塵も感じさせず元気にチラシを配るホンモノの市会議員は、きっと議会以外にも精力的に活動しているのだろう。
 その彼を横目に私は寒さに背中を丸めて駅のコンコースに向かった。

おわり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?