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メタバースにおける時間とは何か

 現実世界の精巧なデジタルツインをメタバース上に作ったとしても、そこには空間も時間もないという話を別の記事でした。
 バーチャル空間は仮想空間なのだから時間や空間が無いのは当たり前と思うかもしれないが、英語で言うバーチャルという言葉は仮想というよりも「現実」という意味合いを持っているというのを別の記事に書いた。

 時間とはなにかというのは哲学の大命題だ。
 メタバースの中の世界を見ることで、もしかしたら時間の本質に迫ることができるかも知れない。

 質量ある物体が無いバーチャル空間では、放っておいてもオブジェクトは劣化しない。錆びたり朽ちたり歳を取ったりはしない。現実世界では時間の経過とともに起こるこうした変化が無い以上、物体の変化をもとに時間を測ることが難しい。
 さらに、バーチャル空間ではオブジェクトの移動は瞬時に行うことが出来る。設定座標を変更するだけで良いからだ。だから移動量で時間を測ることもできない。

 時計がない場合に私達はどうやって時間を感じる事が出来るのだろうか。
 月や太陽を見ることが出来れば、それらの見た目の位置で時間の経過を把握出来る。
 月も太陽もないとすれば、出来事の流れ、つまりタイムラインに沿って進む会話記録のようなものがあれば時間を把握する手掛かりになる。
 他には無いだろうか。
 空腹になると鳴き出す腹時計、眠気、疲れなどだろうか。

 メタバースのバーチャル空間に住むとした時、私達の身体そのものは相変わらず物理空間に縛られているから、身体感覚が残っている限りは時空間の呪縛から開放されることは無い。
 だから、バーチャル空間そのものには時間が無いけれども、そこにいる私達の時間感覚が無くなることはない。メタバースが広まって人口が増えたとき、時間が無き世界にいるにも関わらず時間を感じてしまうというズレは、時間に関するVR酔のような事象として襲ってくることになるかも知れない。

 バーチャル空間を楽しんでいる人を傍から見た光景は映画『マトリックス』を想像してもらえば分かり易い。映画の中では、人間が繭の中に横たわった状態で仮想世界の光景を見せられている訳だが、仮想世界での身体的ダメージが実際の身体にも反映されるという設定だ。恐らく、病は気からの論法、つまり心のなかで考えたことは身体にも影響するという設定なのだろう。
 VRメタバースでは当然そんなことはなく、バーチャル空間で顔を殴られたからと言って本当に顔が傷つくことはない。それでもきっと、心は傷つく。文字だけのコミュニケーションが意図せず不用意に他人を傷つけがちなのと同様に、メタバース内で受けるメンタルダメージは、目に見えない形で私達を蝕むようになってもおかしくないだろう。

 時間の話に戻すと、メタバースにおける時間とは、実世界の時間とも、実世界にいる私達の感じる時間とも微妙にズレながら進むように見える仮想時間ということか。
 現実世界では時間が解決するということがあるのに対して、そんな包容力など持ち合わせていない仮想時間は、私達の心の闇を食って育つような空虚で暗黒の時間なのかも知れない。
 そうだとすれば、それに飲み込まれないような注意が必要だ。

おわり

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