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極北カナダ Vo.7 南東アラスカの国有林 『 −30℃のテント暮らしに到る道 』

入植地は当然開発を行い、伐採をして林業や農業を行うのが入植者のやり方であった。一方で自然を保護をする場合には、大自然にはなるべく手をつけず、人が自然で遊ぶリクリエーション用の場所として使いながら、将来の為に残しておくものだと認識された。先住民と入植者には、自然に対する大きな認識と価値観の違いがあったはずで、今現在でも北米で続く問題であろう。

Vo.6のお話の続きです。(Vo.6はこちら↓)

アラスカのシーカヤックの冒険に出かけた場所は、Tongass National Forestという、アメリカでは最大の国有林だ。海と森に囲まれた南東アラスカの多くがこのTongass National Forestに含まれている。

アメリカの国有林と聞いてもあまりピンとこないが、北米の国立公園のシステムは有名であろう。イエロー国立公園に始まり、アラスカではデナリ国立公園などがあり、日本からもコロナ前までは毎年多くのツアー客が訪れていた。国立公園は人間がなるべく手をつけず、自然の姿をそのまま残しておくというものだ。一方で国有林は、自然保護に気をつけながらも、林業や漁業と行った人間の活動も認めるというものらしい。

多くの先住民族が暮らし、そこからヨーロッパ系の移住者が入ってきた北米の歴史を見ると、どのように北米の国立公園というシステムができたのがわかる。白人が入植する前に住んでいた先住民にとっては、自然は人間が一部となって暮らす場所で、人間を自然の一部から切り離してまで保護する対象ではなかった。自然の回復力を上回るほどの文明を持つことなく、自然に寄り添いながら、大地の恵みを享受しながら生きてきたからだろう。

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<霧に包まれる南東アラスカの深い森。所々で、開発の跡も見える>

逆にヨーロッパからの入植者にとっては、新大陸の原野は果てしなく大きく、不安になる危険な場所で、人間が征服をして管理する対象であった。そのまま何も手をつけずに、残しておくものではない。入植者の視点では、原野や大自然は人間が管理するもので、開発をするにせよ、保護をするにせよ、人間がピラミッドの頂点にたち、決断を下していくというものだ。

入植地は当然開発を行い、伐採をして林業や農業を行うのが入植者のやり方であった。一方で自然を保護をする場合には、大自然にはなるべく手をつけず、人が自然で遊ぶリクリエーション用の場所として使いながら、将来の為に残しておくものだと認識された。先住民と入植者には、自然に対する大きな認識と価値観の違いがあったはずで、今現在でも北米で続く問題であろう。

ただ入植者の活動を全て制限したのでは、新しく移ってきた人たちも暮らしてはいけない。また一度開発した土地であっても、元々あった自然を回復させたい。そこでできたシステムが、ある程度自然を保護をし、一定の範囲で開発をしていくというのがNational Forest(国有林)という概念だった。

南東アラスカでも、古くから木材の伐採が行われており、今でも所々に伐採された「剥げ跡」が見える。一方で一部では豊かな森がまだ残されており、時折見える伐採跡さえ見えなければ、無垢の大自然がずっと広がっているという錯覚を受けるほどだ。

こうした背景がある国有林だが、アラスカの国有林の良い点は、一般の人たちが利用できる山小屋があることである。南東アラスカに点在するTongass Forest Cabinの数は100棟以上もあり、地元の人を中心に、誰でもリクリエーションで使うことができる。今回のカヤックの旅でも、森の中にポツンとある山小屋に遭遇した。

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<Tongass National ForestのBlind Passキャビン 公式サイトより>

4日目の夜に、初めてこの国有林の小屋に泊まることになった。4日目の昼に到着し、そこでランチを食べていた四人のカヤックグループに遭遇した。ランチ後に彼らは去り、一人残ってゆっくりとする。まだ旅が始まって数日だが、今夜は野営のテント泊ではないと思うとホッとした。リアルで少々危険な体験を求めてアラスカに冒険にきたはずだが、同時に心のどこかで安全と快適さを求める気持ちもあった。

結局その夜は雨が降り、次の日も一日ずっと雨が降っていた。南東アラスカは温帯雨林なので、雨が降っているのが普通の状態だ。快晴を期待してはいけない。ただ大雨の中を、わざわざ体と荷物を濡らしてまで小さなカヤックには乗りたくないのが本音だ。結局この日は1日中本を読んで休むことにした。

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(雨の多い南東アラスカ)

今夜もここで泊まるのかなと思っていた夕方頃、突然小屋に人がやってきた。話を聞くと、キャビンの予約をしているカップルで、モーターボートでケチカンの街から来たらしい。本来であれば予約をして泊まるものだが、この時はそのシステムを全く理解しておらず、空いていると泊まることができるものだと思っていたのだ。。。大雨ではあったが、すぐに荷物をまとめて出ていかなかければならない。

到着した二人はケチカンの街に住む、タイソンとアンジェラという人たちだ。こちらが予約をしていない身分で滞在していても、怒るわけでもなく、パッキングをする間は世間話をして過ごした。アンジェラは空手もしており、日本が好きだと言っていた。旅が終わったら遊びにおいでと言って、電話番号まで残していってくれたのだ。アラスカの人は、心の大きな人が多いのかな。。。そう感じながら、雨の中をカヤックで出発した。

この時は午後6時半過ぎ。暗くなる前に、今日の野営地を探さなければならなかった。快適な山小屋から、またすぐに原野の野営の旅へと戻されたのだった。

(次回Vo.8に続く)

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