見出し画像

極北カナダ Vo.0 ゲル暮らしを始めた理由 『 −30℃のテント暮らしに到る道 』

”極北のゲル暮らしは薪を割ったり、水を汲んだりと多くの作業がある一方、外の自然を常に感じることができる豊かな暮らしでもある。時にはフクロウの声が聞こえたり、上空を飛んでいく白鳥やオーロラを眺めることができることもある。自然との繋がりを求めてやってきた極北カナダのユーコン準州。家に住みたいと思いながらも、なんだかんだで、シンプルな森のゲル暮らしが似合っているのかもしれない。"

画像6

今朝の気温はマイナス42度。北極海から寒波が南下し、一年でも最も寒い気温となっている。ゲルの中では薪ストーブがフル稼働で、中は寒波を感じさせない温かさだ。

極北カナダの森に暮らしてから、今年で9年目となる。最初は1年ほどだけここにいて、他の場所へと移動することになるかもしれない。そう思って選んだのが移動式のテント、ゲル(又はパオ)である。モンゴルなどの中央アジアで使われてきた丸いテントで、放牧しながら生きていく為に作られた簡易住居だ。

極北カナダのユーコンで、なぜゲル暮らしなのか。外的な要因としては、土地の価格が急高騰し、昔のように気軽に土地や家が買えない状態にあるからだ。人口3万人の街の州都ホワイトホースでは、東京の都心と同じくらいの値段で家が売り買いされている。

ゲル内部

(ゲルの内部。丸い形が特徴的)

ユーコン自体は日本の1.3倍の大きさで、そこに住む人は約4−5万人しかいない。州都を出ると、人が住んでいない原野が広がるのみである。こんな広大な大地でも、自由に土地を売り買いすることはできない。多くの土地が先住民族、カナダ政府によって所有されており、そう簡単には開発ができない様々な規制がかけられているのだ。

一方でカナダは移民社会でもある。ユーコンで2、3年働くと、カナダ永住権がもらえるプログラムが始まった2010年前後から、世界各国の人たちが労働者としてユーコンにやってきた。人口は増え続けるが、売り買いできる土地が全く足りていないのが現状である。

そこで考えたのが、移動式テントのゲルだった。こちらユーコンに戻ってくる前は、以前ユーコンで出会ったカナダ人の妻と共に、北海道・道東の馬牧場に3年住んでいた。広大な土地を持つ大家さんに許可をとり、日本の拠点となる山小屋を廃材を使ってDIYで建てた経験がある。

山小屋スタイルの建物は利用すると快適なものだが、問題点は建物を簡単には動かせないことだ。この経験から、ユーコンでもキャビンを建てるのではなく、移動できるものしよう。そう考えて選んだのがゲルだった。

山小屋

(北海道の山奥の山小屋。廃材を使ってDIYで建てたもの)

妻と買ったゲルはアラスカで作られたもので、極北の寒冷地での使用を前提としたものだ。2月前後の極寒期でも暮らして行けるよう、サイズはあえて小さめにした。薪ストーブですぐに温めることのできるサイズの方が、大きくても寒いよりは良いからだ。断熱材も注文し、ゲルの建設に取り組んだ。床やデッキを作るのは一人で1週間ほどかかったが、実際のゲルの組み立ては早いものだった。

友人数人ほどの手を借りること、ものの1日でゲルは立ち上がった。ろくな家具もない中、丸いテントでの暮らしが始まった。いつ移動してもいいように、中の荷物も最低限で留める生活が数年続く。来年は移動できるかな。そろそろ家を買いたいよね。こんな話を何度妻としただろうか。一方で土地や家の値段は下がるどころか、毎年跳ね上がるばかり。最初にユーコンを訪れて2004年に比べると、家の値段は2倍以上に跳ね上がっている。

白黒ゲル

2020年の3月。コロナが世界中に広まり、パンデミックが始まった。今までは我慢して、ゲルの居住環境を敢えてよくはしてこなかった。ところがコロナ禍で自営の自然ガイドツアーが急停止し、急に自由な時間が手に入ることになった。

この時間を利用して、今まで抑えていた居住空間を改善することにした。いつかいつかと考えるよりも、まず身の回りの事に取り組む事にしたのだ。そこで最初に作ったのが、玄関と温室を兼ねた空間で、ゲルの入り口部分に取り付けた。素材はできる限りリサイクル品を利用し、ご近所さんからいらなくなったドアやガラス材、廃材をもらってきたもので作った。

画像6

(建設中の様子。廃材のドアを半分に切ったところ)

夏は温室として利用し、野菜を育てることができるもので、冬は外の寒さを和らげてくれる効果もある。(今朝の外気はマイナス42度の時、温室内はマイナス30度。いつも10度ぐらいの気温差がある。)マラミュートの愛犬テンシも、建設後はよく温室内で夜を過ごすようになった。

温室完成後に作ったのが、手作りサウナだ。こちらもリサイクル材を存分に使って作ったものだ。我が家ゲルには水道が通っていない為、必要な水はわざわざポリタンクで外から持ってこなければいけない。当然シャワーやお風呂というものがない。ダウンタウンでツアービジネス用に借りている小さな空間にいき、そこでシャワーを浴びたり、水を汲んだりするライフスタイルである。

画像2

(サウナ内の様子。出来上がりの瞬間)

サウナができることにより、凍らない夏場は簡易シャワーを設置することができた。冬はサウナで汗を流した後に、外でポリタンクに入れたお湯を用意して、シャワー代わりにしている。こうして改善されたゲル暮らしの生活環境。いつまでここに住む続けるかは不明だが、パンデミックが終わる当面の間は、今までよりも快適に過ごせることができるようになった。

極北のゲル暮らしは薪を割ったり、水を汲んだりと多くの作業がある一方、外の自然を常に感じることができる豊かな暮らしでもある。時にはフクロウの声が聞こえたり、上空を飛んでいく白鳥やオーロラを眺めることができることもある。

自然との繋がりを求めてやってきた極北カナダのユーコン準州。家に住みたいと思いながらも、なんだかんだで、シンプルな森のゲル暮らしが似合っているのかもしれない。

極北カナダ −30℃のテント暮らしに到る道 Vo.1(Vo.1はこちら↓)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?