⑩ 「知識」と「思考」の関係性
⑨では、国語科において教えるべきものは『学習指導要領』にそのすべてが示されているのであり、それを分析的に示せば「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「主体的に学習に取り組む態度(⑨では省略しましたが)」の3観点として表現することができるいうことを述べました。そして、それまで述べてきたことと関連させると、「知識及び技能」は「母語として『自然と身についてはこない』」ものであり、「思考力、判断力、表現力等」は「母語として『自然と身についてくる』」ものではありますが学び直しが必要となってくるものであるとも加えました。
例えば、第3学年及び第4学年の「読むこと」領域の「思考力、判断力、表現力」の指導事項イには「登場人物の行動や気持ちについて、叙述を基に捉えること」とあります。これは、「登場人物の行動や気持ち」を捉えるためには「叙述」が読めなければならない、だから国語科において「叙述」が読めるように指導せよと言っていることになります。
では、この「叙述」について考えていきましょう。「叙述」とは物語等の文学的な文章が書きあらわされている文章のことです。ですから、この文章が読めるためには、その前提として⑦で述べた「文学の言語」についての理解がなければなりません。物語等の文学的な文章には、解釈の幅が広い「文学の言語」が用いられているのであるという理解とそれを読む技術がないと読めないということになります。
第3学年及び第4学年の「知識及び技能」の指導事項オには「様子や行動、気持ちや性格を表す語句の量を増し、話や文章の中で使うとともに、言葉には性質や役割による語句のまとまりがあることを理解し、語彙を豊かにすること」とあります。つまり、「言葉」の「性質」とは⑦で述べた「文学の言語」と「論理の言語」も関連するものであり、それは3年生くらいから理解できるようになるということです(3年生から系統的に「文学の言語」についての指導をしていけば4年生『ごんぎつね』では⑦で示した「うなぎの頭~」の文の解釈ができるようになります)。
上記の「叙述」は「文学の言語」という言葉レベルとそれを組み合わせた文レベルの「知識及び技能」となります。もうひとつ「叙述」について考えていかなければならないことは、文章全体としての「叙述」です。つまり、最初から最後までの流れとしての「叙述」と言えるでしょう。文学的な文章とは、筆者が何かを伝えるため(主題と言われています)に「物語的思考」を用いて表現したものとなります。ですから文章全体としての「叙述」は「物語的思考」の枠組みで分析的に読んでいかないと、筆者の伝えたいものは把握できないということになります。
前述した「思考力、判断力、表現力」の指導事項イにに示された「叙述を基に捉える」とは、今述べてきたように文章全体を「物語的思考」の枠組みで分析的に読んでいくということになります。全体を通して筆者の伝えたいものを把握できないと「登場人物の行動や気持ち」を捉えることはできません。
「物語的思考」については、児童たちは今まで文字が読めるようになる以前から読み聞かせをしてもらう中で、文字が読めるようになったからは自分で物語を読んでいく中で「自然と身について」きたものとなります。しかし、児童は何となく感覚として筆者の言いたいことを把握してきたにすぎません。国語科の授業においては、発達段階に応じて「物語的思考」の枠組みを具体的に指導し、その枠組みを基にして物語を分析させることを通して筆者の言いたいことを把握させていく必要があります。こういう指導がいわゆる母語の学び直しというものとなります。
このように「思考力、判断力、表現力等」を育成していくためには、前提としてそれに関連する「知識及び技能」が必要となるのです。国語科の学習指導要領に示された「知識及び技能」とは「思考力、判断力、表現力等」の前提となるもの(支えているもの)であると言えるでしょう。