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「幽霊はそこに座っている」

#Twitter300字ss  お題「書く」

 休職している友人の家を訪ねると、彼は書き散らした原稿用紙に埋もれていた。
「妻が帰ってきた」
 原稿用紙を掻き分け、妄言を繰り出す彼の隣に座る。彼の妻が亡くなってからひと月過ぎだ。
「妻が生きているように日記を書けば、彼女が目の前に現れて、お茶を淹れてくれて、叱ってくれるんだ」
 頭ごなしに彼の妄想を否定すれば、取り乱されるに違いない。
「良かったな」
 乗ったふりの俺に微笑みながら頷く彼は、ふと顔を上げた。
「お帰り、今日は友人が来てくれたよ。君も会ったことがあるだろ」
 喋りかける方向には誰もいない。
 何と哀れな男なのだろう。
 項垂れた俺の視界の隅に、女の手がちらりと見えた。
 そこに座っているのを、彼が知ることはない。


(300字)


2018年2月に参加したTwitter300字ss(http://knschk.blog.fc2.com/blog-entry-22.html )の、別視点のようなお話になりました。



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