「幸運の女神には帯がある」
谷水春声さんには「音もなくほどけた」で始まり、「その言葉を飲み込んだ」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば5ツイート(700字程度)でお願いします。
#shindanmaker #書き出しと終わり
https://shindanmaker.com/801664
音もなくほどけた蝶々結びの帯を何も言わずにつまんで、結びなおした。障子にできた穴を覗いていた子どもは、帯を結び直されたことに驚いたようで振り返り、私の顔をまじまじと見つめた。
子ども、としか表現しようがない。
ずっとずっとこの実家にいる幼い女の子だ。
この子どもと何か喋ったり、遊んだりしたことはない。両親、祖父母の揃った一家団欒の場面になるといつの間にか、誰かの隣に座って笑っていたり、茶菓子をつまんだりしているのを何回も見た。和服を着ているのになぜか周りに馴染んでいて、あれ、自分には妹がいたんだっけ、と錯覚しそうにすらなる。
一度、その子の正体を親に聞いたことがあるけれど、親はただ不思議そうな顔をしただけで、じきに大人同士で別の話題を始めてしまった。
この子どもはそういう、話題にすらならない、無視をしていい存在なんだろう。なぜだかそう納得して、以降は口に出すのをやめてしまった。
座敷わらし、という存在を知ったのはずっと後のことだ。
古くて大きな家に住んでいる妖怪、というよりは神様のようなもので、座敷わらしの出る家は裕福になるのだという。
裕福かどうかは微妙なところだが、確かに築年数はかなり経っている広い家だ。何かが住み着いていてもおかしくはない。
しかし。
触ったのは初めてだ。
いつもならば、気がつけばいて、気がつけばいなくなっているのに。
今日触れたのには、何か意味があるのだろうか。
私は驚きで固まったままの子どもにきちんと視線を合わせて。
ねえ私実家を離れることになったのだけど、あなたも一緒に来てくれないかな。
と、口まで出かかった。だが断られるかもしれない、とふと思い、怖くなってその言葉を飲み込んだ。
(700字)
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