「鯉館の主」
#Twitter300字ss お題「救う」
祭りの縁日、作業のように淡々と金魚を掬う少女がいるので目に留まった。
それが鯉館の主との出会いだ。
少女と共に居たばあやに声をかけたのは、後から思えば正解だった。
案内された屋敷の池や水槽には鯉が沢山泳いでいて朱、白、金、黒と目まぐるしい。
「鯉に見えますが全て金魚です。お嬢様の取った金魚は慎重に管理しておりますので数年以上持ち、体も大きくなります」
説明してくれたばあやも年をとり、今では私が少女、いや、主にかしずいている。
「一体ここの何が良いの。金魚がお好き?」
主に訊かれた。
金魚というよりお嬢様の心が。儚い命を数多救って育てているので。
「救って…さあ、どうかしら」
主はそう言って珍しく、少しだけ笑った。
(300字)