見出し画像

「自閉症は津軽弁を話さない」~自閉症には音声や視覚の「絶対音感」があるのではないか、という仮説 

「自閉症は津軽弁を話さない」

 このタイトルを読んで、今まで出会ってきた自閉症スペクトラム症の子どもたちを一人ひとり思い出し、思わず叫びました。

「たしかに! みんな方言しゃべっちょらんやん!」

◇◇◇

 私には、自閉症スペクトラム症の娘がいます。
 また、仕事上、自閉症の子どもたち(おもに低学年)と接することも多いです。

 住んでいるところは九州の片田舎。「ほら、宿題やっちょかんと」「えー、でも今いいとこやけん、あとで」「明日先生に怒られてもしらんよ」なんて、方言が飛び交いまくる環境です。

 にもかかわらず、自閉症の子どもたちが方言で話しているのを、あまり聞いたことがありません。というか、「方言でしゃべってるかどうか」の意識すらしていませんでした。この本のタイトルを読んで、「そういえば」となったんです。

 上の 「自閉症は津軽弁を話さない 自閉症スペクトラム症のことばの謎を読み解く」では、著者の松本敏治さんが、乳幼児健診にかかわっている奥さんから「自閉症の子どもって、津軽弁しゃべんねっきゃ」と言われたことをきっかけにして、日本全国を調査し、この仮説を実証していく過程が書かれています。

 そして、続編である「自閉症は津軽弁を話さない リターンズ」で、自閉症の言語獲得の謎に迫っていくことになります。

◇◇◇

 よく「自閉症には3つの特徴がある」と言われています。

① 社会性の障害(視線を合わせない、ひとりが好き、友達が作れない、ルールやマナーの習得が苦手、臨機応変な言葉づかいができない、など)
② コミュニケーションの障害(言葉の発達の遅れ、言葉どおりに解釈する、あいまいな表現だと理解できない、など)
③ 想像力・こだわりの障害(興味のあることに没頭、ルーティンを大事にする、急な予定の変更にパニックになる、など)

 たしかに自閉症の子どもを見ていると、この3つの特徴にあてはまることが多いです。でもこれって、「結果的にそんな特徴を持った人間になる」ってだけなんじゃないか。この3つの特徴をもって「これが自閉症の本質だ!」とは思えませんでした。

 結局、自閉症ってなんなの?

 その問いに答える大きなヒントが、「自閉症は津軽弁を話さない リターンズ」に書かれていたのです。

◇◇◇

 歌手や音楽家には、「絶対音感」を持つ人がいますよね。絶対音感とは、なにかの音を聞いただけで「♭ラ」「♯ファ、シ、ラ、♯レ」と正確な音名が分かる、そういう能力のことです。

 自閉症の人たちは、音声言語に対して「絶対音感」を持っているのではないか。この現象を、筆者は「音声の絶対的特徴にもとづく音声の聞き取り」と表現しています。

 どういうことか。

 母親が発する「おはよう」は、機嫌や体調などによって、微妙に音の高さやイントネーションが変化します。ロボットのペッパーくんじゃないんですから、変化するのはあたりまえですよね。

 それに比べて、テレビのコマーシャルで発せられる「おはよう」は、音の高さもイントネーションも同じです。何百回聞こうと、絶対に変化しません。

 本の中でも、こんなエピソードとともに紹介されています。

そこで峰松先生は、手記や詩集を出版するASDの青年やアメリカの女性動物学者で高機能自閉症のテンプル・グランディンさんに会いに行き、彼らのことばの特異性と自らの解釈を重ね合わせていきました。グランディンさんに、「なぜ、家族のことばではなく、テレビのことばをよくまねるのですか?」と聞いたところ、「家族の声はいつも変わる。テレビは変わらない声を届けてくれる」と言われたそうです。

 うちの娘も、子供向けYouTubeチャンネルを完コピして、楽しそうに口ずさんでいます。テレビやネット動画などのメディアでは、方言ではなく「共通語」で話されることが多いので、口ずさむ言葉も共通語となっています。なるほど、だから自閉症は方言を話さないのか。

 このように、自閉症は「音声の絶対音感」を持っているからこそ、言葉の発達も遅れるし、臨機応変なコミュニケーションが難しいという特徴があるわけです。この説明、すごく納得しました。

◇◇◇

 ここからは私の仮説ですが、自閉症に「音声の絶対音感」があるように、「視覚の絶対音感」みたいなのがあるんじゃないか、と思っています。

 自閉症の子たちって「〇〇博士」であることが多いです。恐竜や電車、ポケモンなど、なにか特定のことにめちゃくちゃ詳しい傾向があります。ちなみにうちの娘は「妖怪博士」です(笑)

 図鑑にのってる恐竜や、時刻表どおりにやってくる電車は「視覚的に変化しないもの」だから認識しやすいはずです。
 親やクラスメイトはどうでしょう。ファッションや髪型は毎日変わるし、機嫌によってころころ表情が変化します。自閉症が「視覚の絶対音感」を持っているならば、きっと混乱するはずです。

 となると、「ころころ変化するルールやマナーに対応せよ」「目に見えない『場の空気』を読め」なんて、無茶ぶりにしか思えないでしょう。

 結果的に、社会性が欠如しがちになり、興味のあることやルーティン活動にこだわりがちになる、という一面もあるんじゃないか、と思ったんです。

◇◇◇

 ここまで書いたことも、まだ仮説にすぎませんから、もっと納得いく説明でくつがえるかもしれません。だけど、ただ「自閉症って社会性、コミュニケーション、こだわりの障害なんだよ」と言われるよりは、はるかに納得できる仮説です。

 奥が深いですね、自閉症って!!

※ 自閉症=まったく方言を話さない、というわけではありません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?