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2020年という一年を経て。

舞台の星空演出を切ったのが、2020年の私の仕事納めだった。

スイッチひとつで消えた星空。途端に舞台は暗闇に包まれ、明るく輝いていた星空の残像が余韻として残った。その時初めて、今までただなんとなく眺めていた星空を心から恋しく思った。

今年は、このスイッチのように何かのボタンの掛け違い一つで、世界中が混乱と絶望の渦に陥った。その時初めて、今まで何気なく過ごした景色が当たり前ではないことに気付かされた。

私は本当に有難いことに個人としての仕事がとまることはなく、所謂「ステイホーム期間」があまりなかった。でもだからと言って私の仕事は、医療従事者のように人を助けるものでもなければ、運送業従事者のように社会インフラを支えるものではなかったため、何かにすごく取り残された気分になった。
友人の多くはステイホーム期間中で友人なりの過ごし方を見つけ、気持ちの整理の仕方を見つけ、この苦難を一生懸命過ごしているようだった。医療従事者である母とその勉強をしている妹は、まさに直接人のためになる営みをしていた。みんなが羨ましく思えた。

いろんな仕事が立ち消え、流れ、「ああ、今こんなことをしている場合ではないのだな」と思うようになった。去年から、ある種心の柱のように取り組んできた仕事も理不尽な形で敗れてしまった。非常に夢があったプロジェクトもなくなった。でも、この虚しさも、世界のどこかで誰かがくらったショックに比べたら、きっと大したことないんだろうと思い、さらに落ち込んだ。

ただ本当に有難いことに、ぽつぽつとではあるが、公私ともにいろんなシーンで誰かと星空を見上げることができた。その時、流れている空気が以前とは明らかに違ったように感じた。今の状況、この先の未来、どうなるか分からない不安、だけど今見上げている星空の美しさを誰かと共有できる幸せ。何も言葉が出てこなくても、少しの間でも、誰かとの繋がりを実感できる時間。その繋がりは、この未曾有のパンデミックを経験したから感じられる、人間同士の繋がり。この時代に生きているからこその繋がり。
そこで隣にいる人の無垢な笑顔を見たときに、私は自分の仕事のことを、人を助けることができる仕事だと思い、社会インフラと同じかそれ以上に人々を支える仕事にしたいと思った。星空は世界の共通言語なのだから。

新型コロナウイルスの発生は多くの苦難や悲劇や生んだ。と同時に私たちは、意図せず裸にされたのであると思う。
外に出られないけれどお洒落したい、人と会いたい、旅行に行きたい、将来どうしたい?
様々な願望、直感、考えが「自分の身」から出てきた。そしてそれを自分で受け止めた。裸ん坊だからきっと出来た。
「ああ、私の2020年はきっと、いろんなものが理不尽に失われて終わる、それだけの年になる。」と思っていた。だけど、得るものがあったから今こうして書いている。自分の仕事の意義を偶然にも考え直すことができた。

2021年は、人々の営みに元気が戻り、地上の星空がまた見られますように。
一年後の世界が、今より少しでも笑っていますように。

めげずに頑張るためのパワーも、疲れて立ち止まるための癒しも、どちらも生み出せますように。
直接的なことはできないかもしれないけれど、私はそのために今年も星空を届けようと思う。


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