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不条理短篇小説

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現世に蔓延る号泣至上主義に対する耳毛レベルのささやかな反抗――。
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2017年10月の記事一覧

短篇小説「森羅万象エネミー」

短篇小説「森羅万象エネミー」

 世の中の物体はすべて敵味方に分けられる。ご存知だとは思うが、敵味方というのは人間にのみ適応可能な概念ではない。我々は「燃えるゴミ」と「燃えないゴミ」を分別するように、あらゆる物体をも敵味方に分ける必要がある。さもないと、物に迷いが生じてしまう。

 しかし自治体により客観的な基準の定められているゴミの分別と違い、敵味方の分別には個人差がある。たとえば既婚の中堅サラリーマン・絵根見田友郎の場合。

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短篇小説「米米商店街」

短篇小説「米米商店街」

 その商店街にはじめて店を出したのは米屋だった。さすが日本人の主食である。と言いたいところだが、そのはす向かいにオープンした二件目の店もまた、別の経営者が開いた米屋だったことで町内は騒然となった。

「おいおい、年貢はもういいぜ」

 そう言って揶揄していたある若者が、二件目の米屋の隣に魚屋をオープンした。おかずが必要だと思ったからだ。

 しかし魚屋は繁盛しなかった。なぜなら米屋は本当の意味での

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短篇小説「命に別条」

短篇小説「命に別条」

 ある朝、男が工事現場の脇を歩いていると頭上から大量の鉄骨が降臨、その頭部を直撃するという事故が起きた。だが幸運なことに、この日初陣を飾った一張羅のカツラこそ飛び立ったものの、男の命に別条はなかった。別条がないというのは良いことである。

 クロスした鉄骨の合間からひょっこり顔を出した男はまるで別人の様相であったが、なにしろ命に別条はない。しかし残念なことに、頭部から離脱したカツラが複雑に絡みあう

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