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マーケティング戦略|シーズとニーズについて

Webマーケティングについては「TANOSHIKA HP作成」サイトにも詳しく掲載しています。
今回の記事では、マーケティング戦略|シーズとニーズについて書いてみます。
情報元は『マーケティング戦略』 野口智雄著 です。

技術志向と消費者志向

主に企業の研究開発部門や技術部門が、研究の結果として出してくる製品化のアイデアをシーズといいます。これに対して消費者の視点からこのようなものが製品化されたらいいのになと思う欲求をニーズといいます。

シーズとニーズ

シーズ(seeds)は「種」という意味で、企業内ではR&A(研究開発)部門が主に提示します。ハイテク系の大企業では大規模な研究所を持ち、多数の博士号取得者が新技術の開発に取り組んでいます。大幅な普及をみた携帯電話も通信技術、デバイス技術などの研究開発により実現しました。
★人々にとって有用性の高いシーズは、ある日突然状況を一変させる力を持っています。エコカー、電子レンジ、クレジットカード、自動改札機、CD、薄型液晶ディスプレーなどの新技術の開発によって、われわれは利便性や豊かさ、快適性を手に入れることができました。
★しかし、マーケティングの分野ではもともとニーズが重要であるとされています。お金を支払ってくれるのは消費者である以上、消費者の望むものを提供するのが当然です。
★3Mのポスト・イットがその典型です。もともと同社には、はがれるのりという技術はあったのですが、その用途がわからず製品化されていませんでした。ところが、サンプルを秘書に使ってもらったところ、便利で手放せなくなったといいます。
★ニーズもシーズも車の両輪のようにどちらも大切ですが、考え方としては、シーズで技術的に先行し、ニーズがそれに改良を加えると考えればよいでしょう。

具体例

シーズ志向で成果が上がったマーケティング事例

シーズ志向に基づいた事例として有名なのが、Apple社の創設者であるスティーブ・ジョブズが行った商品開発です。
ジョブズは「消費者はニーズを理解していない。こちらから消費者にニーズを教えるのだ」という考えを持っていました。つまり、ニーズに合わせて後追いで商品を開発するのではなく、今までは世の中に無かった画期的な商品を消費者に知ってもらい、「それが欲しかった!」と思わせるモノづくりの姿勢でiPodやiPhone などの大ヒット商品を次々と生み出しました。この場合の「シーズ(種)」は、ジョブズ自身が持つ発想力や開発力です。
この事例では、消費者自身も意識していない潜在的なニーズが、画期的な商品を通じて顕在化したという結果につながりました。結局のところ、いくら「シーズ」の技術や素材が素晴らしくても、そこに顕在的もしくは潜在的なニーズがなければヒットにはつながりません。シーズはニーズありきであることが前提となります。また、自社の持つ技術力を転用し、従来の分野と違うドメインに進出するマーケティングもシーズ志向といえます。例えば富士フイルムは、主力分野であるカラーフィルム事業が衰退する中で、独自に培ってきた高機能材料や3次元構造化技術をヘルスケア分野に転用しました。現在ではヘルスケア事業は同社の柱になっています。

ニーズ志向で成果が上がったマーケティング事例

消費者のニーズを掘り起こして大ヒット商品を生み出した事例としては、ソニーのウォークマンが有名です。外で音楽を聴くためには大きなステレオラジカセを持ち出すしかなかった時代、1979年に初代ウォークマン(カセットテープ)は発売されました。コンパクトに音楽を持ち歩けるウォークマンは若者に大ウケし、初回生産分をわずか2カ月で完売した後、6カ月に渡って注文が殺到する人気商品となりました。
パナソニックのパソコン「レッツノート」は、ターゲットニーズにピッタリ合う商品開発を行った結果大成功した事例です。PC市場で後れを取っていたパナソニックは、法人需要に目を付けて、外回りの営業マンをターゲットに絞って開発を行いました。軽さの実現と長時間駆動・耐久性にこだわったノートパソコンを作りました。ターゲットのニーズにしっかり応えたレッツノートは2013年には日本市場のシェアを38%も取る大ヒット商品となりました。
その他、今では当たり前のカメラ機能付きスマートフォンも「カメラを気軽に持ち歩きたい」というニーズ発想を取り入れたものです。現在ではスマートフォンのカメラの高画質・高機能化が進み、アナログカメラは完全に市場シェアを奪われた状態となっています。

日清食品:カップヌードルリッチ
日清食品の主力商品であるカップヌードルは、1971年に世界初のカップラーメンとして誕生し、2016年に45周年を迎えました。若年層である20代~30代に人気のイメージが強い商品ですが、60歳を越えたあたりで購入率が低下することが日清食品の抱える大きな課題でした。そこで同社では、カップヌードルが販売された当時20代でカップヌードルを食べていた現在のシニア層にもまた食べてもらえるように新商品の開発に乗り出しました。
同社では当初、健康志向を意識したカロリーオフや減塩などを打ち出し商品開発をしていましたが、それほど手に取ってもらえることはなく、シニア層の調査から単にシニア層といってもさまざまな志向を持っていることがわかりました。そこで、消費行動が活発でSNSも使いこなす「アクティブシニア」に着目しました。アクティブシニアがSNSに投稿する内容は食事の写真を見たら意外と自由に好きなものを食べていました。その調査からは、シニア層が健康に気遣っていることは確かだが、食事に対して美味しさや質の良さを諦めたくないということがわかりました。
それを受けて開発されたのが、美味しさやプレミア感を追求しつつ健康要素も取り入れた「カップヌードル リッチ」です。「贅沢とろみフカヒレスープ味」や「贅沢だしスッポンスープ味」の2品を販売し、販売価格は100円代が通常価格の中、200円を超える価格設定で挑みました。消費者の反応は狙い通り、味に対する評価が高く、多くの方が価格以上の価値を商品に見出すことができた結果になりました。同商品のターゲットである60歳以上の購入層に加え、50代にもヒットし、発売7ヵ月で1,400万食を達成しました。2019年にはリニューアル発売をして幅広い年代に愛される商品となりました。食品の本物を知っているシニア層に響くよう「リッチ」という言葉を商品名に加え、年齢の先入観に捉われずにインサイトを発掘したことがヒットの成功につながったといえます。

大戸屋:2階以上の店舗
大戸屋ホールディングスが運営する「大戸屋ごはん処」は1階ではなくビルの2階以上や地下に位置していることが多い飲食店です。一般的に飲食店はファミリーレストランのように独立した店舗を設けるなど1階に位置しているほうが集客率は高まるとされている中、飲食店として異例の立地を選ぶ背景には、主要ターゲット層である男性客だけではなく女性客を取り込みたいという同社のマーケティング戦略があります。
今では、老若男女問わず愛され、手軽な価格で美味しく栄養バランスの良い食事を取ることのできる定食屋というイメージが強いですが、大戸屋ごはん処を展開し始めた当時(1990年代)の定食屋に対するイメージは「食べ盛りの男性客がたくさん食べるために行く」というイメージが強くありました。そのため女性は定食を食べたいという欲求があったとしても定食屋には入りづらい雰囲気があり女性客の集客に苦戦をしていました。商品メニューに女性に視点を当てたレディースセットなどを出せば、女性客でも来店しやすい環境が作れるのではという考えもありました。しかし、同社の調査により発見したインサイトは「定食屋で食事をしている際に外から周りに見られたくない」というものであり「女性が食べやすいメニュー開発」では、女性の真のニーズを捉えることはできないという結論に至りました。
そこで、現在のようにビルの2階以上や地下に店舗を構え、女性が一人で来店する際にも外から周りに見られることのない環境を作りました。女性客のインサイトを捉えた店舗設計により、多くの女性客を呼び込むことに成功しました。男性が多い場所に女性客を呼び込みたい場合、一般的には女性限定の割引やレディースセットといった商品メニューを考案する企業が多く見受けられますが、同社では顧客インサイトに着目して新たな客層取り込むことに成功しました。

パナソニック(旧:ナショナル):食器洗い乾燥機
家電メーカーのパナソニック(旧:ナショナル)の食器洗い乾燥機は、洗濯機よりも人気が出るほどヒットし、2003年に売上のピークを迎えました。しかし、2003年を境に売上は徐々に低迷し、その後、ドラム式洗濯機や薄型テレビ、サイクロン掃除機など最新家電が次々と登場したこともあり、食器洗い乾燥機の市場自体が縮小していきました。
そこで同社では、食器洗い乾燥機のニーズが高いとされていた子育て層の主婦をターゲットに販売戦略の再構築を開始しました。再構築に向けて調査を進めていくと、競合他社を含めた食器洗い乾燥機の主な打ち出しは、「家事がラクになる」という文脈のものでした。しかし、この訴求は本当に正しいのかを検証したいと考えた同社は、子育て層の潜在的なニーズを探るために、主婦の日常生活を徹底調査してターゲットの顧客インサイトを探りました。その結果、子育て層には「子育てをしっかりやることが愛情表現である」という潜在意識があり、「家事がラクになることは子育てに手を抜いている」と見られるのではないか、と考えていることがわかりました。子育てをしている主婦層には、育児や家事の負担を家電で解消することに罪悪感があり、それが食器洗い乾燥機への購入に歯止めをかけていたというインサイトを発見することができました。
この結果から食器洗い乾燥機がもたらす価値の訴求を大きく変更し、「家事をラクにする家電」から「子どもと一緒にいられる時間を長くする家電」へブランディングの変換を図りました。子供との時間を大切にするための食器洗い乾燥機といったプロモーションによりターゲットの罪悪感を取り除き、顧客インサイトを発掘しました。その結果、競合他社が市場から撤退する市場の中で売上を回復することに成功しました。


最後までお読みいただいて、ありがとうございました。

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