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あなたの周りにもいるかもしれない、日常に潜む殺し屋を見分ける方法『ザ・ファブル』

※本記事は、「マンガ新聞」にて過去に掲載されたレビューを転載したものです。(編集部)

【レビュアー/小禄卓也

突然だが、みなさんの周りに殺し屋はいるだろうか?

僕たちが堅気の仕事をしている限りはほぼ出会うことがない職業。それが殺し屋である。

ロシアとかだと、きっと今IT業界で人気沸騰中のグロースハッカーという職業を軽く超すくらいの人数はいるんじゃないかなぁと思ってはいるが、日本だとその存在は一般的ではない。「殺し屋 日本 依頼」というキーワードで検索してはみたが、現代の全知全能の神に最も近い存在のGoogleさまですらまともなアンサーを持っていない。もはやお手上げ状態だ。

それでも、裏社会や夜の仕事に興味がある僕は、じつは殺し屋は日本にも結構いるんじゃないかと思い始めている。ただただ依頼された人を仕事として殺すだけの「殺しのプロ」だから、顔バレするわけはなく、身バレなんてもってのほか。知らないだけで、意外とスタバでMacBook Proを開いていたりするかもしれない。

なぜ僕が突然そんな不安を抱き始めたのか。その理由が、今回紹介する『ザ・ファブル』という漫画にある。

”ファブル=寓話(ぐうわ)”の異名を持つ伝説の殺し屋が、1年間殺し屋稼業を休業し佐藤明(仮名: サトウアキラ)として一般社会に潜伏することをボスに命じられるところから始まるこの漫画。大阪の真黒組というヤクザの監視下で繰り広げられる前途多難な日常生活が、コミカルさとシリアスさの絶妙なバランスで描かれている。

作者の南勝久さんは、ずっとヤングマガジンで『ナニワトモアレ』『なにわ友あれ』という大阪環状線を舞台にしたヤンキー漫画を描いてきた。

この2つの作品が魅力的だった理由は、南さん本人が大阪環状族としてかつてブイブイいわせていたとかいないとかで、自身の体験談や知り合いから聞いた話がふんだんに盛り込まれていたため、妙にリアルで生々しいヤンキーの日常が描かれていたところにある。

だから、もしかするとあのヤンキーたちの中に殺し屋になった人間が一人くらい存在して、そいつを主人公にした漫画を描いたのではないか。それが『ザ・ファブル』なんじゃないかと思っている。

そんな疑惑は、「紙面上のキャラに針を刺すと血が出るような、そんな人間が描きたい」という『ザ・ファブル』第1巻の表紙裏に書かれた南さんのメッセージを見て確信に変わった。

僕たちが暮らすこの世界は、コインのようにウラとオモテがハッキリと分かれてはいない。むしろ、やじろべえのようにバランスを崩すとウラにもオモテにも転がりかねない危うさを持っているのだ。だからこそ、僕たちはウラの社会に足を踏み入れないよう日ごろから自分の身を守らなければならない。

そこで僕は、『ザ・ファブル』に登場する主人公の殺し屋の生態系について研究した。今回は備忘録的に、幼少期に森で最長1カ月サヴァイヴし、「どんな敵でも常に6秒以内に倒す訓練をしてきた」というファブルの生態系を以下に記しておく。

みなさんの周りにもしこんな人間がいたら、それは殺し屋かもしれないのでくれぐれも注意してほしい。

殺し屋の生態その1: マンションの降り方がワイルド

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『ザ・ファブル』(南勝久/講談社)1巻より引用

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『ザ・ファブル』(南勝久/講談社)1巻より引用

これはもう確実に裏社会と関係しているだろう。こんなことをしている人がいたら十中八九殺し屋と思ってよさそうだ。

殺し屋の生態その2: 笑いのツボがシュール

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『ザ・ファブル』(南勝久/講談社)1巻より引用

人を多く殺して生きてきたため、感性が一般人と少しズレている。いわゆるシュール系の笑いが好きな人間には要注意か。

殺し屋の生態その3: チャリのスピードが一般人の2倍

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『ザ・ファブル』(南勝久/講談社)3巻より引用

”ふつう”を知らないだけに、時折超人的なことをやらかして一般人の度肝を抜くことがあるようだ。悟空かよ。

殺し屋の生態その4: 家では基本全裸

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『ザ・ファブル』(南勝久/講談社)1巻より引用

確かKinki◯idsの堂◯光一さんは家で全裸だという話を聞いたことがある。まさかあんな王子様が……おっと誰か来たようだ。

殺し屋の生態その5: 寝る場所はバスタブ

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『ザ・ファブル』(南勝久/講談社)3巻より引用

きっと全身が凝りに凝っているに違いない。渋谷宇田川町のカイロプラクティックをお薦めしてやろうか。

殺し屋の生態その6: 寝起きのまま入浴

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『ザ・ファブル』(南勝久/講談社)3巻より引用

まぁ便利。

殺し屋の生態その7: 休業中の仕事は時給800円の配達員

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『ザ・ファブル』(南勝久/講談社)3巻より引用

ここでも、一般の「安い」「キツい」といった感覚に対する無知さがあらわに。雇用主からするとありがたい話ではある。

殺し屋の生態その8: 枝豆は皮も食べる派、手羽先は骨も食べる派

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『ザ・ファブル』(南勝久/講談社)3巻より引用

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『ザ・ファブル』(南勝久/講談社)3巻より引用

豪快と野蛮の境界線がないのだろう。一般社会の常識というものをイチから叩き込む必要がある。ちなみにこのメガネの貝沼はクズ野郎で、殺し屋よりもタチが悪い。

殺し屋の生態その9: めっちゃ猫舌

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『ザ・ファブル』(南勝久/講談社)1巻より引用

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『ザ・ファブル』(南勝久/講談社)1巻より引用

意外と可愛げがある。そういえば僕も猫舌だが、殺し屋ではない。

あなたの隣にいるかもしれない”ファブル“に要注意

いかがだっただろうか。伝説の殺し屋と呼ばれたファブルの人間らしさやおちゃめさのようなものが垣間見える様子は、さながら映画『レオン』の主人公のようである。

しかし、だ。殺し屋は殺し屋。決して堅気になれない人物であることだけは伝えておきたい。ある人は、殺人者に共通するのは、「トロンとした目」だそうだ。ファブルもご多分に漏れず、言われてみるとどこかトロンとしている。

あなたの隣人が殺し屋である可能性を、誰が否定できようか。だからこそ、殺し屋の何気ない日常を克明に描く『ザ・ファブル』を読み、彼らの生態を理解することでみなさんの身に降り掛かるかもしれない火の粉を未然に防いでもらえれば、それほど幸せなことはない。

ファブルーー文字通り寓話かもしれない殺し屋という人種だが、その存在を信じるか信じないかは、あなた次第だ。

※南勝久先生曰く、この物語はフィクションだそうです