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恋愛成就のご褒美「裸の関係」から始まるラブコメディー!?『金曜日はアトリエで』

【レビュアー/新里裕人

本作は、漫画誌『ハルタ』のアンケートで上位評価を得ている、スローテンポ・ラブコメディーです。

仕事や日々のストレスが積もり積もって「死にたい」と思っていたOLの環は、ふとしたきっかけから新進気鋭の画家・石原のヌードモデルになります。

彼女が仕事を引き受けた理由は、死ぬ前に食べたいと思っていたサンマを運命的なタイミングで食べる事ができたから。

まるで冗談のような理由に聞こえますが、彼女はそのとき人生の岐路に立っていて「美味しいものを食べる」というきっかけのおかげで「最悪のルート」を選ばずに済みます。

一方で石原の方も、良いモチーフが見つからずに煮詰まっていましたが、環をモデルにすることによって、新しい作風を生み出すことに成功します。

ヒロインの天然に玉砕する天才画家のナルシズム

ヒロインの環は、美人で礼儀正しいのですが、とても天然です。

石原はマスコミに注目されるほどの有名画家であり、彼女がモデルを引き受けたのも自分の知名度ゆえと自負していたわけですが、あとで彼女から「有名な方なんですか?」と聞かれてショックを受けます。

思わず

君は全然知らん初対面の男の前で、裸になった上にサンマまみれになったのか?

と聞き返してしまうほど。

石原は才能があり熱意のある優秀なクリエイターですが、人の心が分からない所があり、つい高飛車な物言いになってしまったりします。

いつもは、高名な画家の肩書で無理を押してきた彼が、環の天然の前であっけなく打ち砕かれ、あたふたする様子がコミカルに描かれていきます。

恋愛のポジティブな可能性を感じさせる恋愛漫画

本作のヒロインは何故ヌードモデルなんでしょうか?

それは、本作が描こうとしている恋愛そのものに関わるような気がしています。

一般的な恋愛において、それなりに深い関係になるまで相手の裸を見る機会はないですよね? 言い換えると、恋愛成就のご褒美が裸(SEX)というわけですが、本作はあえて、その図式をぶっ壊すことで、違う所に焦点を置いた恋愛を描いているように思えます

2巻からは、それぞれの友人が登場するのですが、学生時代から良い所も悪い所も知っている彼らが石原と環の変化を感じ「それだけの影響力をもった相手」に出会ったことを察するエピソードが語られます。

つまり、この二人の恋愛は、お互いがお互いの良い面を引き出しあう恋愛なのです。そしてそれは、たとえ恋愛感情が明確でなくても、お互いを認め合う事から始める事ができるものです。

「画家とモデル」というビジネスの関係から始まったからこそ、お互いを公平に評価することができているのかもしれません。

ゆっくりと関係を深めながら、環が日々の生活の中で自分を取り戻したり、石原が画家としての新境地を開拓したり、といった人間的な成長が描かれていくところが、読んでいて素晴らしく感じました。

現在3巻まで刊行中。

ようやく環が、石原への自分の中の気持ちに気付きそうです(ようやくか!?)。