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タクシー車内で死因は溺死?! 遺体の声なき声を聞く法医の世界『そのモガリは熱を知らない』

【レビュアー/上原梓

突然ですが、私は女性です。

女性なのに…足のサイズが28センチあります!!

和田アキ子さんよりも大きいこの足ですが、パンプスを強いられる職場で働いているわけでもないので、女湯に置いたスリッパで男性が入ってると間違えられ、旅館のフロントに通報されたこと以外は、特に大きな問題もなく暮らしてまいりました。

でも、どこかで不安があるのです。

何らかの事件に巻き込まれ、殺害されてしまったとします。私の遺体がバラバラにされ、最初に足が見つかった時に、「男性の足の一部が発見」と発表されるのではないでしょうか…。さらに、その後「男性と発表しましたが、女性の遺体であることが分かりました」と訂正され、妙な印象でみんなの記憶に残ってしまうのではないか……。

いや、すごく馬鹿なことを心配しているのは分かってます! でも、高校生の時にこの妄想にたどり着いて以来、ずっとどこかで不安なのです…!! どうか、バラされることなく平穏無事に死ねますように…!!

前置きがだいぶ長くなってしまいましたが、今回はそんな長年の悩みを安心で包んでくれた作品、『そのモガリは熱を知らない』を紹介させてください!

主人公は研修医の。自分が何科の医師になるべきか進路に悩んでいました。そんな中、ある事件現場の遺体を「検案」することに。その現場で刑事である狩結ランと出会うのですが、ランは鋭い遺体への分析力と、凄い解剖テクニックを持つ医師でもありました。

ランの活躍で、あやうく「病死」と診断されてしまうところだった死体は、「事件」による死であることが発覚。それをきっかけに、南は法医学者を志すことになります。警視庁にある「特別法医捜査室」に出向になった南。ランと共に、さまざまな遺体と向き合う日々が始まるのです。

生きている人間を救う仕事、医者。しかし、死者を救うのもまた医者。遺体の声なき声を聞く法医の世界の凄みが見事に描かれた作品です。

皆さん、不審死体って、みんな検死=解剖されて死因を特定されるものだと思っていませんか? 私はそう思っていました! しかし、実は一律で解剖されるのは東京23区、名古屋、大阪市、神戸市のみ。他の地域では、法医を修めた専門医ではない医師による「検案」が行われる場合もあるそうで、そんな「知らなかった!」が溢れている作品でもあります。

「目を病めば眼科医に 胃を病めば消化器科医に 心を病めば精神科医にかかるのに 死体には選ぶ権利がない。この国じゃ“死”という病は蓋をしたまま葬られてしまう。法医ならその蓋を開けられるのに」

ランは、そんな自らの言葉の通り、事故や自殺として蓋をされてしまいそうな死体の声を聞き、その蓋をこじ開けていきます。

道で不審な死を遂げた男性、学校で自殺した女子高生、交通事故で死亡した男性、など、さまざまな死体を通じて真実を掘り出していく様子は、従来の推理ものとは一線を画した面白さ! さらに、ラン本人の重すぎる過去も相まって、来年くらいに実写化の発表あるよね!? というくらいの作品です。

私が特に「おお…!」と思ったのは、2巻に収録されている路駐されたタクシーの車内から見つかったドライバーの死体のエピソード。なんと、その死因は「溺死」…?

ランや南がいれば、私に万が一のことがあっても、第一報に誤報が交じることは無いに違いありません!! 良かった〜!!

この冬は、死因から事件の謎を紐解く面白さに身を浸してみるのはいかがでしょうか?


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