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打ち切り後に熱狂を生んだ、異形で異例の孤高的漫画。荒木飛呂彦伝説の始まり『バオー来訪者』

そいつに触れることは死を意味する!

『バオー来訪者』とは、あの『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦先生の週刊少年ジャンプ誌上連載2作目となる作品であり、連載当時1984年のジャンプファンの間では(今でも)伝説となった漫画です。

私は数々の漫画作品をこよなく愛して読み続けてきましたが、今でも「一番好きな漫画は何ですか?ひとつだけ挙げてください」と言われれば間違いなくこの『バオー来訪者』と答えます。

私を含めた当時の漫画ファン・ジャンプファンの間で、何がそこまで評価され局所的なブームを巻き起こしたのか?それを順に解説していきます。

バルバルバルバルバルバルバルッーー!

これ何の音かわかりますか?

『バオー来訪者』という作品は、いわば荒木飛呂彦が描く『仮面ライダー』と表現すればわかりやすいかもしれません。主人公は悪の組織から逃げ出した逃亡者であり、その体には特殊な寄生虫『バオー』を宿しています。自身の肉体に生命的危機を感じると、体に変化を与えてまさに闘う戦士へと変貌するのです。

その時に鳴る音が、この「バルバルバルバルッー!」なのです。

意味わかります?この音って、その寄生虫『バオー』が体内で叫んでいる音なんです。もうね、この時点で天才ですよね、荒木飛呂彦先生。決して常人には辿り着けない領域にいらっしゃいます。

本作を読んだ当時の子供たちの間では「なんだこれ?なんか変な漫画が始まった」くらいの認識でしたが、やがてそれが突出した個性であるという認識に変化していきます。

武装現象(バオー・アームド・フェノメノン)

変身したバオーは、様々な必殺技=武装現象(バオー・アームド・フェノメノン)を使用します。これはまさにヒーローもののお約束とも言える要素ですが、やはり荒木飛呂彦先生の手にかかればそれすらも普通じゃないとてつもない表現となります。

バオー・メルテッディン・パルム・フェノメノン!

バオー・リスキニハーデン・セイバー・フェノメノン!

バオー・シューティングビースス・スティンガー・フェノメノン!

バオー・ブレイク・ダーク・サンダー・フェノメノン!

これが必殺技の名前なんですよ?それぞれが全然違う技です。(メルテッディン・パルムは、手のひらから溶解液を出してなんでも溶かしてしまう技です。リスキニハーデン・セイバーは両腕から高質化したブレードを出してそれで敵を切り裂く技です)

まず長い!とにかく長いよ技名。そして覚えにくい!メルテッディンって何語!?発言できないよ!

当時の子供たちもそう思いました。そして、やがて様子は変わっていくのです。学校のお昼休みや掃除の時間にジャンプを読んだ男子たちがふざけあいながら「メルテッディン・パルムが出ないッ!」と至る所で叫び始めたのです。(作中の真似)

突出した個性が読者に刺さった瞬間でした。

ジャンプを読んでいたみんながこの『バオー来訪者』という特別な作品の奇妙な魅力にハマり始めたのでした。

打ち切りとは思えない珠玉の全17話

突出した個性を発揮して少しずつ読者を魅了し始めた『バオー来訪者』でしたが、当時のジャンプ編集部からは打ち切りを宣告されました。

同時期にジャンプに掲載されていた他の漫画作品は『北斗の拳』『キャプテン翼』『ハイスクール奇面組』『風魔の小次郎』『よろしくメカドック』『Dr.スランプ』『銀河-流れ星 銀-』といういずれもアニメ化されるようなメガヒット作品だらけでした。

少しずつ読者を増やすという方針ではなく、メガヒットを垂直立ち上げさせるという意向があった編集部からは、『バオー来訪者』はカルト的作品だと認識されあえなくその連載は終了となるのです。

しかし!ここでも異変が起きます。

通常は、打ち切られた作品の多くが物語を最後まで描くこともなく、尻切れトンボで「俺たちの闘いはこれからだ!」というノリで終了してしまうことがほとんどでした。

一説には『バオー来訪者』に打ち切りが宣告されたのは14話の時点だと言われています。

それからわずか3話で畳まなきゃいけないとなると、やはり通常はドタバタと詰め込まれた展開になりがちです。

なのに『バオー来訪者』はそうはならなかった!

読み終えた後の読者全員が、「これは本当に打ち切りなのか?」「こんな完璧な終わり方ってある?」「最初から全17話の予定で描き始めたんじゃないの?」と感じるほど素晴らしい展開と終わり方をするのです。

読者からは物語にぜい肉が無く必要な要素だけでまとめられていて読後感含めて感動的作品である、という評価を得たのでした。

連載終了1年後に月刊ファンロードで特集!

ジャンプで連載を終了してから、実に1年以上も経過したのちに月刊ファンロードで『バオー来訪者』の特集が組まれました。しかも、表紙&折り込みポスターが荒木飛呂彦先生による描きおろしイラストだったのです。

ファンロード本誌では荒木飛呂彦先生のインタビューも掲載され、今でもこの号はファンの中でも伝説的なアイテムとして高値で取引されています。

連載が終了した後にも、こうしてファンを魅了し続ける『バオー来訪者』とはまさに異形で異例の孤高的作品となっていったのです。

『ジョジョの奇妙な冒険』がこの数年でテレビアニメ化されたことにより、荒木飛呂彦先生の認知は爆発的に(世界中で)広がりを見せ、かなりメジャーなイメージがついて来たと思います。しかし、意外とまだ『バオー来訪者』を読んでいないという方はいらっしゃるのではないでしょうか?

この機会に荒木飛呂彦先生の完成された珠玉の名作を読んでみてはいかがでしょう!

最後に、この『バオー来訪者』という作品に登場する一番カッコいいセリフを紹介したいと思います。

「誰に誓った?自分に誓った この少女を助けると自分に誓った! 望みは捨てない! 自分は最強の生命力を持った生物なのだ!」
※『バオー来訪者』(荒木飛呂彦/集英社)より引用

WRITTEN by 松山 洋
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