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吉祥寺の不動産屋が地元の物件をまったく紹介しない本当の理由『それでも吉祥寺だけが住みたい街ですか』

【レビュアー/ミヤザキユウ

人間が変わるためのたった3つの冴えたやりかた

ビジネスコンサルタントの大前研一さんによれば、人間が変わる方法は3つあるそうで、「時間配分を変える・住む場所を変える・付き合う人を変える」だそうです。

いずれの方法も、従来の視点を変えて新しい刺激を受けることにつながる方法です。シンプルかつ納得感があるので、いろんなところで紹介されています。

僕がこれを聞いてちょっと引っかかったのは「住む場所を変える」という言い方です。方法論ならもっとシンプルに「引っ越す」でもいいんじゃないかなと思いました。たとえば友達に話す時とか「住む場所変えたんだよね〜」っていう言い方はしなくないですか?

ただ、引っ越しをテーマにした漫画『それでも吉祥寺だけが住みたい街ですか』を読んでいると、この言い方には実は深い意味が含まれてるんじゃないかな〜と納得できたのでした。

圧倒的街プレゼン力の双子姉妹の不動産屋

『それでも吉祥寺だけが住みたい街ですか』は、ドラマ化もされた人気作品『吉祥寺だけが住みたい街ですか』の続編になります。

吉祥寺といえば、住みたい街ランキング上位の常連街。

主人公はそんな吉祥寺で不動産屋を営む双子の重田姉妹です。彼女たちの不動産屋には日々、さまざまな事情を抱えて吉祥寺に住みたいお客さんがやってきます。

しかし姉妹は、そんなお客さんたちに吉祥寺の物件を紹介しません。「全然わかってない」「あんたにはもっと合った街がある」「さあ行くぞ」と、別の街に連れ出します。

お客さんは日本橋浜町だったり湯島だったりと、おなじ都内ではあるけれど吉祥寺とは位置も雰囲気も全然違う街に強制的に連行され、圧倒的情報量の街プレゼンをおこないます(ちゃんとそのあとで、ニーズにマッチした物件の紹介もする)。

そうして高密度で街の魅力を流し込まれ、バッチリな物件を紹介されたお客さんはその街への引っ越しを決意して人生が変わる…というオムニバスになっています。

物件を紹介することは、住む場所を紹介すること

シゲタ姉妹の街プレゼンは仲介する物件よりも周囲の商業施設やお店の情報の比重が重くなっています。

歩き回って一緒に飲んだり、近場の施設をエンジョイしたりと、一見いきあたりばったり&非効率ですが、彼女たちのやりかたは物件紹介の本質を突いてると思いました。

不動産屋の機能として求められているのは住む家の紹介です。しかし人が家に住む以上、必ずそこには家が含まれるフィールドである街(=住む場所)を利用した暮らしも生まれます。そこまでをイメージさせる重田姉妹のプレゼンだからこそ、お客さんはこの街に引っ越したら、今まで抱えていた課題が解決されるかもしれないという期待を抱くことができ、引っ越しを決意をするのです。

これに気づいたことで、だから大前さんは「住む場所を変える」という、やや回りくどい言い方をしていたのかなと思いました。ただの移動である「引っ越し」では足りなくて、住む場所が変わったと実感し、暮らしのしかたが変わるからこそ、見るものや目線が変わり、人としても変わるのだと言いたかったのではないでしょうか。

僕はいつも引っ越しは物件のコスパ・スペック優先で選んじゃう派なので、不動産屋さんに行ったらレインズ見せてって言うだけなのですが、こういう決め方をいつかしてみたいなと毎話読むたびに憧れちゃいます。

それが『それでも吉祥寺だけが住みたい街ですか』。

続編の本作は1巻が出たばかりですが、気になったら『吉祥寺だけが住みたい街ですか』もぜひ。