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魔王を倒してから始まる物語は、後悔のない生き方を教えてくれる『葬送のフリーレン』

【レビュアー/おがさん

『葬送のフリーレン』は週刊少年サンデーに連載中の作品です。「このマンガがすごい! 2021(宝島社)オトコ編」の第2位にも選ばれ、目下大注目の本作を、今回は未読の方に向けてレビューします。

魔王を倒した後から始まるアフターストーリー

本作は勇者達4人のパーティーが、10年の歳月をかけて魔王を倒したところから物語が始まります。

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『葬送のフリーレン』(山田鐘人/アベツカサ/小学館)1巻より引用

平和な世界を取り戻した後も、魔法収集の旅に出たフリーレン。フリーレンはエルフ族であり、数千年の時を生きるとされています。

そして、50年後にかつての仲間たちと再会します。寿命を迎えた勇者ヒンメルの死をきっかけに、フリーレンは人間を知ろうとしなかった事に後悔し、再び旅に出る事を決めます。そして冒険の終わりから、魔王を討伐した道のりを追体験してく旅が始まります

後悔のない人生は、託す者の存在があるから。

本作には、他の作品にはない特徴を感じる部分があります。

それは、死にゆく者たちに後悔がなく、生きる者たちに後悔が生まれるということです。

人間は自分が亡くなる時に、後悔する人の方が多いのではないでしょうか。仕事、恋愛、家族、生き方など、あの時違う選択をしていたら…と後悔してしまうかもしれません。むしろ、後悔のない人生などないのかもしれません。

ですが、勇者ヒンメルはとても安らかな表情で最後を迎え、僧侶ハイターも「ヒンメルは幸せだったと思いますよ」と語っています。

死にゆく者たちに後悔がないのは、託す者がいるからでしょう。

勇者ヒンメルには救ってきた町の人々がいます。僧侶ハイターにはフェルンが、戦士アイゼンには弟子のシュタルクがいます。そして何よりも、共に旅をしたフリーレンが変わらずに存在します。

人間よりも圧倒的に寿命が長いフリーレンだったからこそ、安心して世界を託す事ができる。たとえ自分がいなくなっても自分の想いを理解し、後世へ広げてくれる存在がいる事が、彼らの生を輝かせています。

取り戻せない後悔は、今を変える為に。

死にゆく者たちに後悔がないことに比べて、フリーレンは人を知ろうとしなかった事による後悔を抱きます。

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『葬送のフリーレン』(山田鐘人/アベツカサ/小学館)1巻より引用

人間とは寿命が違いすぎるがゆえに、エルフ族にとっては10年という歳月はあまりにも短いもの。人間とエルフの間の時間感覚の違いが丁寧に描かれています。

また、本作には多くの魔法が存在しますが、魔法でも変えることができない唯一のルールがあります。それは、時間は一方通行で、不可逆であることです。

つまり、魔法を持ってしても過去を改変することはできず、絶対に取り戻せない後悔だからこそ、今に活かすしかない。フリーレンにとって人生の100分の1程度の時間である、たった10年間のヒンメルたちとの冒険の思い出。それが、自分よりも圧倒的に寿命の短い人間に興味を持つきっかけとなりました。

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『葬送のフリーレン』(山田鐘人/アベツカサ/小学館)1巻より引用

思い返すのは、ヒンメルたちと笑いあったくだらない日々。フリーレンの旅は、そんな当たり前のように過ごした日々の中にあふれる、愛と優しさに気づく旅でもあります。

それはまるで、限られた時間を生きる私たちに、後悔のない生き方を教えてくれているようです。