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想像のレッスン

今日の午後のこと。スーパーのお惣菜売り場でふと顔を上げると、ガラス越しに調理場が見える。清潔に保たれるための白衣や帽子、マスクを装備して黙々と調理する人々と、「おふくろの味」を強調したラベルが貼られて並んだ肉じゃがが、私の中でどうしても結びつかない。ということに、はっとする。普段、肉じゃがのその向こうについて想像することはあまりない。

ここにあるものを手がかりにここにないものを想う、その〈想像〉という心のたなびきがどんどん短くなっているようにおもう。何かの情報やイメージが眼の前に現われたときに、それをとくに吟味することもなく額面どおりに受け入れる、逆にあたまからそれにふれることを拒み、撥ねつける。それにすぐさま同意する、あるいは反撥する。それに対して適切な距離というものがとれない。それがどうしてそのようなかたちで現われてきたのか、それがわたしにはすぐに見えない遠くのひとにとってどの ような意味をもつのかに、うまく想いをはせることができない......。
( 想像のレッスン / 鷲田清一 )

想像力がひどく萎縮しまった時代に、アートや本、音楽やダンスなど、生活の裂け目にうごめきだす〈想像〉をみつめた一冊。批評というよりも「他者の未知の感受性にふれておろおろするじぶんをそのまま晒けだしたかった」という言葉通りの想いが溢れた文章で、心が弾みながらあっという間に読みすすめられる。

アートを鑑賞するときにどうしても身構えてしまったり、すぐに世間の感想を聞きたくなってしまうけど、「わからないものをわからないままに向き合って、言葉になりえないものをなんとか言葉を駆使して潜り込んでいく」ことの大切さを思い知らされる。

見ることと写すこと、見えることと写ることとは違う。アングルのなかに写す者の恣意が入り込むということはあるが、カメラで写すというとき、画像の出現そのものはカメラのなかで完結する出来事だ。見るということは違う。見ることには、見ようとする身体の構えのなかに身体の各部位の運動がそれぞれに連繫をとりつつそっくり参入してくる。そのなかに、何をさぐるかという動的な志向性もしっかり蠢きだしている。見るというのはアイの出来事ではないのだ。が、よく考えれば、このことはカメラを持って写すという行為についてもいえる。カメラを持つ腕の動きへと収斂してくるさまざまな身体四肢の運動がある。「狙い」もある。ところが、その「狙い」のなかにも日常は侵蝕してくる。日常についての日常的な視点からすると、コモン・スケープの凡庸な写真は、有り余るほどある。日常を写すそのまなざしのなかにも深く浸透してくるものだからこそ、「日常」の写真は困難なのだ。それはカメラの背後に忍び寄り、カメラの「狙い」をも規定してくるものだからだ。 
( 想像のレッスン / 鷲田清一 )

写真についての記述が出てくるたびに、立ち止まってしまう。写真とはいつまでも仲良くできないなと改めて思う。

写真はいつも過剰か不足である。見たくないものが見えてしまい、都合の悪いものを隠しすぎる、その乱暴さが時々怖い。私は憧れるような人たちを何人も撮らせてもらっているけれど、彼ら彼女らを私の額におさめるようなことをして、それを鏡にして自分を形作ってしまっているんだとしたら寒すぎる。

写真を撮ることは、私らしさなんていうナンセンスな呪縛から解放されること、透明でいられる逃げ場所であったはずなのに、いつのまにか私を一番簡単に紹介できる名刺になってしまったな、とも思う。(私が私から剥がれることはできないので当然なのですが…。)

と、あまりグチグチ言うのもよくない。そういう一線を引きつつ、やっぱり単純に楽しいのでやらずにはいられないし、まだまだやりたいことがたくさんある。

そういうわけで「un/bared」というサイトをはじめました。のぞみさんと。ゆらぎのある自分像をのびやかに楽しめる遊び場が、身近にずっとほしかった。プロローグとして、vol.0 のモデル・テキストはのぞみさん。文章もとても素敵なのでぜひサイトで読んでみてほしいです。

「un / bared」Vol.0 / 01
Photo: Rika Tomomatsu
Model: Nozomi Nobody
Styling: Nozomi Nobody & Rika Tomomatsu
Text: Nozomi Nobody

そして、同じ想いでいてくれる人、ぜひ撮影させてください。

もし痛みと絶望に打ちひしがれている人がいるなら守ってあげたい。あらゆる抑圧と闘おうとする人がいるなら応援したい。自分を受け容れるって難しいけど、受け容れられない理由がとんちんかんな社会に(あるいはそれがいつのまにか染み付いてしまった自分自身に)あるのなら、こんなに悲しいことはない。
baredでunbaredなあなたを写すことが、ささやかな一筋の光になることを願っています。

Rika Tomomatsu (https://tmphtmt.tumblr.com/)

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