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コロナ禍下での知的障害特別支援学校における教育活動に対する事前ニーズと事後評価の1事例

はじめに

このコロナ禍の中、先進的な学校は、子どもの学びを止めないために、「オンライン授業」や「動画配信」など、それこそ熊本市教育長さんのことばを借りれば、「できることからやる。できる範囲で工夫する。」で取り組んでこられました。

感染拡大が収束しつつあり、全国の緊急事態レベルも下がってきつつある今、そうした休校下の取り組みを振り返る試みも見られつつあります。コロナ禍においてもすばらしい取り組みをしてまたそれを発信していた学校(先生)のお一人として、ここでは熊本大学教育学部附属特別支援学校の後藤敬匡先生のサイトを紹介します。こうした「これまで」の記録は単にアーカイブ資料としてではなく、「いま」と「これから」においても、とても重要と思います。

富山大学人間発達科学部附属特別支援学校における休校下の取り組み

さて、私が普段から研究、学生教育などでお世話になっている、富山大学人間発達科学部附属特別支援学校(以下、附属特別支援学校)も、以前紹介したように、4月末から「動画配信」と「オンライン授業」のハイブリッドで、子どもたちの学びの保障をしてこられました。

ここにも書いたように、私は、附属特別支援学校さんに、オンライン授業ならびに動画配信をするにあたって、事前に保護者に子どもの実態把握やニーズについて調査するようにお願いし、それらの結果に基づいたコンテンツを用意したり提供したりすることが大切であることを助言させていただきました。

事前のニーズ調査ならびに事後の満足度調査は、全児童生徒の保護者を対象に、無記名式とし、「Google フォーム」で作成したものを実施しました。

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事前調査の結果、休校下における子どもの実態として生活リズムがおかしくなってしまったなど、保護者からは多くの具体的な困りの姿が挙げられました。これについては大変憂慮すべきことで、早急に個々の家庭と協力して取り組みました。他にも様々なニーズが挙げられましたが、中でも多かったのは、「先生大好き、学校大好き」という子どもたちの気持ちと、それに基づく、「先生と話をしたい、先生に話を聞いて欲しい」というものでした。この結果に基づき動画ならびにオンライン授業のコンテンツを整備しました。説明責任を果たした取り組みといえます。

オンライン授業についてはコンテンツのリストがないのですが、動画配信については作成された動画リストを以下に示します。

【小学部】コロナウイルスかんせんしょうってなあに?(5/27)
【全児童生徒】しいたけを育てよう(5/25)
【小学部】歯磨きをしよう(5/25)
【全児童生徒】コロナ対策講座②なぜマスクをつけるの?(5/25)
【小学部】とけいをよもう②(5/25)
【小学部】せんせいカルタをしよう【後編】(5/22)
【小学部】せんせいカルタをしよう【前編】(5/22)
【小学部】おはなしをつくろう②(5/22)
【小学部】ちょこっとクイズ(5/22)
【小学部】どっちがおおいかな(5/22)
【小学部】やさいをそだてよう②(5/22)
【小学部】文章題を解こう~算数編~(5/22)
【小学部】漢字を読もう~動物編~(5/22)
【小学部】漢字を読もう~魚へんの漢字~(5/22)
【小学部】プログラミング~ロボ子ちゃんをむかえに行こう~(5/22)
【小学部】漢字を読もう~【難読】動物編~(5/22)
【作業学習】お家で育てよう~もやし編②~(5/21)
【作業学習】畑を作ろう~苗植え編~(5/21)
【小学部】がっこうたんけんをしよう(5/21)
【全児童生徒】おうちでチャレンジ2~まとあてゲームをしよう~(5/20)
【全児童生徒】おうちでチャレンジ1~ダンスをしよう~(5/20)
【全児童生徒】ダンスを踊ろう!~3分間テクノダンス~(5/20)
【作業学習】お家で育てよう~もやし編~(5/19)
【小学部】漢字を読もう~色編~(5/18)
【作業学習】畑を作ろう~土作り、うね作り編~(5/15)
【小学部】漢字をおぼえよう(5/14)
【小学部】かっこよくきがえよう(5/14)
【全児童生徒】コロナ対策講座①コロナとは?感染するとどうなる?(5/13)
【全児童生徒】体操しよう!その2(5/13)
【小学部】おはなしをつくろう(5/13)
【小学部】からだをうごかそう(5/13)
【小学部】とけいをよもう(5/13)
【小学部】おかしをかぞえよう(5/13)
【小学部】やさいをそだてよう(5/13)
【全児童生徒】副校長先生のお話(5/2)
【全児童生徒】ぴんぽんだまクイズをしよう!(4/27)
【全児童生徒】クイズをしよう!(4/27)
【全児童生徒】英語を学習しよう!(4/27)
【全児童生徒】体操しよう!(4/27)
【全児童生徒】ストレッチをしよう!(4/27)
【全児童生徒】校歌を歌おう!(4/27)

そして、学校再開直後、当然ながら、オンライン授業ならびに動画配信それぞれの取り組みについての満足度調査も行いました。まさにPDCAです。
以下は、附属特別支援学校教諭・山崎智仁先生による休校下での教育活動についての結果のまとめと考察です。

オンライン授業に対するアンケートの結果

・オンライン授業実施前に遠隔授業への参加希望は「72.4%」だったことに対し、参加した児童生徒は「95.8%」であった。
・オンライン授業への期待が、授業実施前は「とても期待」が「35.7%」、「やや期待」が「38.1%」、「やや難しい」が「21.4%」、「とても難しい」が「4.8%」であったが、授業後の満足感が「とても満足」「63%」、「やや満足」が「26.1%」、「やや不満」が「10.9%」、「とても不満足」が「0%」であった。
・満足した理由には「生活にメリハリができた」、「教師やクラスメートに会えて嬉しそうにしていた」、「本人が楽しみにしていた」が複数挙げられていた。
・オンライン授業に家族、本人が行ってほしいと希望のあった「朝の会」「国語」「算数(数学)」「音楽」「体育(体操)」「美術」などは授業後に満足した授業に挙げられている。
・事前に希望の無かった「防災について」「富山県について」「プログラミング」といった授業も満足した授業に挙げられた。
・分かりづらい、難しいといった理由から「間違い探し」や「プログラミング」の授業が不満のある授業に挙げられた。

オンライン授業に対する考察
・オンライン授業の実施前の期待感に対し、満足感が全体的に向上したのは家族や児童生徒本人が希望する授業を行ったことが一つの要因として考えられる。
・オンライン授業を毎日定刻に行ったため、児童生徒の生活のメリハリに繋がり、オンライン授業への満足感に繋がったことも考えられる。
・「防災」、「富山県について」、「プログラミング」など、普段学校であまり学習する機会が少ない活動に対して評価が高かったことから、普段の学習活動にもニーズがあることが分かった。
・一方、「間違い探し」や「プログラミング」ではカメラワークで見づらい、やり方がわからず難しいといった理由から不満のある授業に挙げられ、オンライン授業には向いていないものの扱いについて検討が必要と考えられた。

動画配信に対するアンケートの結果

・動画配信の視聴数の割合は若干減ったが、それほど大きな変化はなかった。
・動画配信への満足感が、動画配信直後は「とても満足」が「38.8%」、「やや満足」が「49%」、「やや不満足」が「12.2%」、「とても不満足」が「0%」であったが、授業後の満足感が「とても満足」が「38.5%」、「やや満足」が「59%」、「やや不満足」が「2.6%」、「とても不満足」が「0%」であった。
・実施直後の満足した理由には、「教師の姿が見られて良かった」といった旨の理由が多かった。一方、「子どもが興味をもたない」「分かりづらい」といった不満の理由が挙げられていた。実施後の満足した理由には、「分かりやすかった」「コンテンツが多彩」といった理由が挙げられている。一方、不満足の理由には「子どものレベルに合ったものがない」「興味を示す動画が少ない」などの理由が挙げられていた。
・動画配信直後に家族、本人から希望のあった動画は「体育(ダンス、ストレッチなど)」「音楽」「国語」「算数(数学)」などであった。動画配信を終え、満足した動画には「体育(ダンス、ストレッチ)」「的当てゲーム」「算数(時計)」「きのこ栽培」などが挙げられた。
・動画配信後には、「長期休業の際に動画配信の希望」が「64.1%」と過半数以上の希望があった。

動画配信に対する考察
・動画配信への満足感では実施直後と実施後では「とても満足」の割合の変化は少なかったが、「やや不満足」が減少し、「やや満足」が上昇する結果となった。これは動画配信直後に希望のあったコンテンツの動画を学部毎に配信したことが要因の一つだと考えられる。一方、全ての子ども達の実態に合わせてコンテンツを用意できなかったことが「とても満足」の割合を増やせなかった原因の一つであると考えられる。
・動画配信後には「的当てゲーム」「きのこ栽培」といった教師の活動する様子を見て楽しむ動画が満足した動画として挙げられていた。この結果から、動画に合わせて教師と一緒に活動を行う動画だけではなく、教師が活動する様子を眺める動画にも需要があることが分かった。
・動画配信後には、「長期休業の際に動画配信の希望」が「64.1%」と過半数以上の希望があったことから、長期休業の際に宿題を提出したり、数日間の登校日を設けたりするだけでは家庭支援が足りておらず、動画配信といった支援のニーズがあることが考えられた。

おわりに

附属特別支援学校は、4月27日から動画配信、5月11日からオンライン授業を開始しました。そして6月1日から通常登校となりました。その間、教員は楽しみながら、実に41本の動画コンテンツを作成しました。またオンライン授業で各教員が得たZoomのスキルは、今も全校職員会議において活用されています。子どもも家族もそして学校もwithコロナ時代の新しい教育活動様式へと自然に移行することができました。

そして、動画配信でも再生回数の多かった「プログラミング~ロボ子ちゃんをむかえに行こう~」のおかげもあり、再開一週間後には新1年生も含めて、附属特別支援学校において2019年度から小学部全体で教育課程に位置付けて毎週実施している自立活動「プログラミングタイム」を開始できたのです。

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今後は、アンケート調査の記述にもあったような長期休暇での取り組みの要望も含め、オンライン授業と動画配信、そして対面授業の3つがハイブリッドな形で展開するなんてこともあるのかもしれませんね。

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