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障害のある子どもを持つ家族の心理と心理サポートに関する研究―母親、父親、きょうだい、祖父母へのアプローチ―

【本稿は、大学広報より「研究」を紹介する記事作成の依頼があったので、それを加筆したものです。】

最近、自分の専門の発信がICTに偏っている(笑)ので、あまり発信していないけど実は専門で普段からずっと取り組んでいる、障害児者の家族の心理とその支援という専門の側面についてまとめました(古い論文は掲載していません。)
なお本noteで特に取り上げたいのは「2.社会的に適応的な生活を送る障害児者の家族の要因」になります。

1.発達障害児の母親を対象とした子育て支援方法の研究

生涯発達を見据えた障害のある子どもの教育や発達支援はもちろんですが、その家族もライフステージに応じた様々なサポートが必要となります。

公認心理師である水内は、家族に対する直接的な心理支援や、ソーシャルサポートにつなげる間接的な支援などの発達臨床を通して、家族支援の方法について研究をしています。

たとえば幼少期の子どもを持つ母親はどうしても子どもの発達の遅れやできないことに着目してしまいがちで、いいところを見つけることが上手ではありません。そこで、発達障害幼児を持つ母親サークルでの「子どもの見方を高め、味方にする」ことを目的とした心理教育プログラムの開発と実践を行なっています。これは発達心理学の知見、ABA、PBS、そしてペアレント・トレーニングの理論をベースとしつつも、水内独自の「個として」そして「母親として」の女性のアイデンティティを支える、楽しいプログラムです。

水内豊和・島田明子・成田泉・大井ひかる(2018)自閉スペクトラム症幼児をもつ母親を対象とした子育てプログラムの効果―育児期の女性のアイデンティティの実態からの分析―.日本小児保健協会編 小児保健研究,77(4),364-372.

水内豊和・成田泉・島田明子(2017)自閉スペクトラム症幼児の母親を対象としたストレスの内容の違いによる子育てプログラムの効果.日本LD学会編 LD研究,26(3),348-356.

水内豊和・島田明子・成田泉(2016)自閉スペクトラム症幼児の母親を対象としたストレスコーピングの違いによるペアレント・プログラムの効果.富山大学人間発達科学部附属人間発達科学研究実践総合センター紀要,11,81-86.

水内豊和・島田明子(2016)保健センターにおける発達に気がかりのある幼児の母親を対象とした「ペアレント・プログラム」の効果に関する実践研究.とやま発達福祉学年報,7,3-10.

この4つの研究の概要は、ここで説明するには紙数が足りないので興味のある人はご自分で探して読んでください。一部はCiNiiからたどれます。

2.社会的に適応的な生活を送る障害児者の家族の要因の研究

こうした発達臨床に加え、いま社会的に適応的な生活を送っている家族の成員(母親、父親、きょうだい、祖父母)に焦点を当て、インタビューや質問紙を通して、プラスに働いている要因を明らかにすることを通して、心理臨床に活きる知見を得て、ひいてはよりよい家族支援のあり方につながる研究しています。
ここでいう「適応的」とは、時代や文化、性別や年齢によって変わってくるものであり、一義的に定義できるものではありません。以下の研究では、それでも「適応的」ということについて、できる限り主観を排し客観性を担保する形で操作的に定義して、適応的な社会生活を送る対象者を選定しインタビュー等の調査をさせていただいています(詳しくはそれぞれの論文をご覧ください)。これがかなり難しいことだというのは一般にはなかなか伝わりませんが(汗)、でもとてもやりがいもあり意義のある研究だと自分では思っています。今後もこの研究は続きます。

【きょうだい】
成田泉・水内豊和(2016)自閉症スペクトラム児・者の適応的な社会生活を送るきょうだいの様相とその適応への要因―青年期におけるきょうだいに対するインタビューの検討から―.日本小児保健協会編 小児保健研究,75(5),629-635.

この研究では、同胞が自閉症スペクトラム障害児・者であり、現在、適応的な社会生活を送っているきょうだいに着目し、そのようなきょうだいの様相と適応に影響している要因とについて明らかにするために、成人きょうだい3名に対するインタビュー調査とM-GTAによる分析を行いました。その結果、きょうだいは、同胞に関する悩みに対して、自分に合った形のソーシャルサポートを認識し活用しており、またその活用に対して満足していることが明らかになりました。また、活用するソーシャルサポートの形は、きょうだいによってさまざまであり、きょうだい自身の性格やきょうだい・家族を取り巻く環境によって異なるということが本研究を通して示されました。きょうだいだからといって心理的に危機にある人ばかりではなく、そのため意図的・系統的な支援が幼少期から必ず必要というわけではないこともわかります。これらの知見は、障害児のきょうだい、そして家族の生涯発達を支える心理職などの支援者にとって重要な示唆を与えてくれます。
【祖父母】
水内豊和(2018)自閉症者の母親と同居の祖父母の良好な関係を築く要因に関する研究.発達研究,32,105-118.

母親と祖父母との関係は双方が影響しあって築いていきます。一方で、子どもが自閉症児であるケースにおいて、これまでの研究では、母親と祖父母との関係についての研究は見られるが、それらは、母親のみ祖父母のみといった片方のみに対するものであり、母親、祖父母というペアに対しておこなわれたものは見当たりません。また、母親と祖父母との関係について、それぞれにストレスや悩みを抱えているというようなネガティブ面を指摘するものは多数あるものの、良好な関係を築くためには何が必要なのかという点については検討されていません。このようなことから、本研究では、「比較的良好な関係」を操作的に定義し、その条件に見合った自閉症児者の母親とその同居の父方祖父母、4組8名を対象としたインタビュー調査とM-GTAによる分析を通して、比較的良好な関係を築くための要因について検討しました。家族の中で母親、祖母の役割のバランスが両者の関係へ与える影響も少なくなく、母親と祖母のお互いが役割を実感できることで良好な関係が構築されることが示唆されました。
【父親】
印刷中 2020年内には刊行予定。

3.(補足)社会的に適応的な生活を送る発達障害当事者の要因の研究

このnoteの趣旨とはズレますが、家族ではなく当事者本人について研究したものもあります。ここでは、神山忠さん、笹森理絵さんといった、発達障害当事者としてご自身の経験を様々なメディア等で発信してくださっている方たちにご協力いただきました。

水内豊和・神山忠・笹森理絵・中村順子・中島育美・芝木智美・高緑千苗・水内明子(2013)適応的な社会生活を送る発達障害者の成功要因の検討―当事者へのインタビュー調査から―.日本自閉症スペクトラム学会編 自閉症スペクトラム研究,9,45-54.

また2020年度の日本LD学会第29回大会(オンライン)では、適応的な社会生活を送る当事者の方へのインタビューを交えてシンポジウムを行います(大会プログラムが公開されるまでは登壇者の名前は伏せておきます)。ここで、少し「社会的に適応的」という概念についても整理する予定です。

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4.知的・発達障害児者の家族の心理についての研究

家族の心理そのものの解明についてまとめたものです。水内研究室では「母親」以外として「きょうだい」を取り扱うことが多いのも特徴です。

水内豊和・高田(涌井)悠希(2020)Down症幼児をもつ母親の心理とソーシャルサポート.小児科,61(3),321-327.

水内豊和・丹菊美晴・佐藤克美・渡部信一(2018)知的・発達障害児をもつ母親におけるソーシャルサポートとしてのSNSの有効性(2)―SNSの機能からみた利活用の実態―.富山大学人間発達科学部紀要,13(1),147-153.

水内豊和・島田明子・佐藤克美・小嶋秀樹・渡部信一(2018)知的・発達障害児をもつ母親におけるソーシャルサポートとしてのSNSの有効性(1)―他のソーシャルサポート源との比較から―とやま発達福祉学年報,9,15-19.

両角良子・水内豊和・末村裕美(2015)発達障害児・者の保護者は誰から嬉しい経験や不快な経験をしているのか―親支援アンケートに基づく実証研究―.富山大学人間発達科学部紀要,9(2),67-77.

水内豊和・片岡美彩(2015)自閉症スペクトラム障害児・者のきょうだいの生涯発達の諸相(第2報)―家族関係ならびにきょうだいの将来展望の視点から―.富山大学人間発達科学部紀要,10(1), 99-109.

片岡美彩・水内豊和(2015)自閉症スペクトラム障害児・者のきょうだいの生涯発達の諸相(第1報)―きょうだいと同胞との関係の視点から―.富山大学人間発達科学部紀要,10(1), 89-98.

水内豊和・芝木智美・片岡美彩・関理恵・高緑千苗・鶴見真理子・水内明子(2013)障害児のきょうだいに対する家族の意識―きょうだい、母親、父親の三者間比較から―.富山大学人間発達科学研究実践総合センター紀要,7,115-120.

これらの研究の概要は、ここで説明するには紙数が足りないので興味のある人はご自分で探して読んでください。一部はCiNiiからたどれます。

家族の心理臨床や研究をしたい学生へ

こうした臨床発達支援に関わる教育・研究を経て、学部学生は卒業後、特別支援学校の教員、保育士として活躍しています。修士学生は公認心理師や臨床発達心理士などの資格を取って大学院修了後、児童精神科や児童相談所、教育委員会などで心理職をしているものもいます。
障害のある子どもだけでなくその家族も支える体験的な学びや研究をしたいという方にぜひ研究室に来てほしいです。

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