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知的障害児・者とウェルビーイング02:「全員に金メダル―多様性に溢れた水泳発表会―:酒井泰葉さん」―【ウェルビーイング教育・支援実践】より

note執筆者:
西村健一(島根県立大学人間文化学部保育教育学科・教授)
水内豊和(島根県立大学人間文化学部保育教育学科・准教授)


『新時代を生きる力を育む 知的・発達障害のある子のウェルビーイング教育・支援実践』

2023年8月末に、『新時代を生きる力を育む 知的・発達障害のある子のウェルビーイング教育・支援実践』が出版されました。

「ウェルビーイングってなに?」については以下のnote記事をご覧ください。

本書では、知的・発達障害のある人のウェルビーイングの実現のために、学校段階だけでなく、生涯発達の観点から、乳幼児期から卒後の生活を見据えた学校・家庭・地域など社会システムの連携が重要であると考えています。

本書より、第2部・第3部に収録した34の事例から、いくつかの概要をご紹介します。ぜひそれぞれの社会システムに関わる方が、本書を読んでいただき、相互に理解を深め連携が広がることを期待しています。
転載にあたっては、出版元のジアース教育新社さまより許可を得ています。

実践事例紹介02「全員に金メダル―多様性に溢れた水泳発表会―」 

第3部・事例7 全員に金メダル―多様性に溢れた水泳発表会―
一般社団法人日本障がい者スイミング協会代表理事 酒井 泰葉さん

活動をしている方・団体の紹介

酒井さんは、もともと大学では心理学を専攻し、スポーツ心理学や障害者心理学を学んでこられました。ご自身が生まれつき体が弱く、体力をつけるためにスイミングスクールに通い始めたことが水泳との出会い。大学在学時に水泳指導員の資格を取得し、スイミングスクールや小学校での水泳指導、障がい者水泳指導に携わるようになります。大学卒業後は、障害者福祉の仕事を経て、個別指導型水泳クラブ「アクアマルシェ」を立ち上げます。現在は毎日水泳を指導する傍ら、障害者水泳の指導者養成講座にも力を注いでいます。
最近では、知的障害者の水泳が及ぼす心理的、運動学的な有効性について、研究者とともに実証的な研究にも取り組み始めるなど、精力的に活動されています。

内容の紹介:事例の概要から

本書では、一般社団法人日本障がい者スイミング協会の主催する「水泳発表会」を紹介しています。協会では、日常生活支援を軸とした個別支援形式の水泳教室と、それを支える障害者水泳指導員の養成研修を開催しています。活動を通じて共生社会に寄与していきたいと考えています。

私たちは「水泳」と言うと無意識のうちに、競技規則に則った泳ぎ方で完泳することが「水泳の完成形」だと決めていないでしょうか。もちろん試合なら競技規則に則り公平性を担保し競技を進めることは重要ですが、「競技」の世界をそのまま選手ではない子供達にも伝えている節は多いと思います。その過程の「バタ足」や子供たちが編み出した泳ぎ方は、その時期にしか見られない大切な成長の記録であるのにも関わらず、そこを「完成系」として評価する公の機会は少ないと思います。特に障害のある子供達の場合は、同じ年齢で同じ障害、同じ程度であったとしても個人差が大きく、子供の数だけクラス分けのクラスがあると言っても過言ではありません。そこで競技会とは別に、子供達の日頃のがんばりを応援できる特別な機会があってもいいのではと考えるようになりました。

ボディマッピングや方向感覚、空間認知の課題等により運動支援の必要な子供たちにとり、身体をコントロールしながら泳ぐことは大きなチャレンジです。子供達が積み重ねてきたそれまでの努力は、子供達の背負うランドセルよりも遥かに重いのです。そこでこれらの縛りを解放した「水泳発表会」を開催することで、個別性の高い問題を普遍的に考えながら、障害の有無に縛られずみんなが参加できる場が叶います。その発想の転換や取り組みを提案します。


余暇、スポーツの充実は、働く・暮らすなどと同様に、人のQOL、そしてウェルビーイングに関わるとても大切な要素です。
本書では酒井さんの思い溢れる取り組みとその成果がたくさんの写真とともに具体的に記述されています。
続きはぜひ本書をご覧ください。


参考サイト・資料

酒井泰葉さんの取り組みがもっとよくわかる著書はこちら。

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