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Overnight Sensation~時代は発達障害者に委ねてる~

このnoteは、富山県小児保健学会理事である筆者が、富山県小児保健学会編「とやま小児保健」第13号(2015)に寄稿したエッセイをもとに加筆修正したものです。 タイトルにビビッと来た人は同世代ですね!笑

 2015年は富山に新幹線が開通した記念すべき年です。私は発達障害のある子どもから大人まで、乳幼児健診や親子サークル支援、発達相談、就労支援、余暇支援などさまざまなライフステージでかかわらせていただいています。
 発達障害、特に自閉スペクトラム症のある人たちは、疫学的にはおおよそ4:1で男性が多いとされますが、年齢にかかわらず、男性には鉄道好き、いわゆる「テツ」が少なくありません。大学生のときに初めて自閉スペクトラム症のある子どもとかかわって以来20年以上になりますが、その間、多くの自閉スペクトラム症&テツの人に出会ってきました。

 実は私もテツです。テツといっても一様ではありません。富山大学に赴任した直後から発達障害成人の余暇サークル「ゆうの会青年部・らぶキラナイター」を立ち上げ、これまで17年あまり活動をサポートしてきましたが、メンバーの中には、乗るのが好きな「乗りテツ」、写真を撮ることが好きな「撮りテツ」、Nゲージなどの模型が好きな「模型テツ」、駅弁のラベルを収集している人、時刻表を覚えている人、特にSLに詳しい人、私鉄だけ詳しい人、などなど、さまざまなテツがおられます。時刻表好きのある方は、毎月紙の時刻表を2冊買い、一冊は閲覧用としてボロボロになるまで見たり書き込んだりし、もう一冊は保存用として綺麗に書架に並べておられます。
 彼らをして、「限局された興味関心」とか「こだわり」とネガティブに表現されることがありますが、彼らのテツにかける情熱、知識、スキルなどには本当に感嘆します。

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 2010年から毎年、夏に一度、水内が30年以上蒐集してきた大量のNゲージとプラレールを水内ゼミの学生たちと一緒に大学のプレイルームに設置し、普段からサポートしている発達障害のある子の親子サークルや成人余暇サークルのメンバーたちに開放していました。(写真は2012年の水内ゼミ活動報告パネル)

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 自閉スペクトラム症を含めた発達障害は、脳の機能障害という生物学的脆弱性に起因するのは疑うべくもありませんが、その彼らをして「障害者」としているのは、健常者(って誰??)という、マジョリティが作り上げた、「21世紀現代の日本という時代・社会・文化様式」の中に置かれているからであり、障害状況は、特にことばを代表としたコミュニケーションを前提としたこの社会と、本人の特性との相互作用の中で作られているものにすぎません。

 富山から東京都の恵比寿に出張することがあった。こんなとき田舎者の私は、恵比寿が果たして都内のどこにあるのかイメージすることもせず、到着時刻を指定して、スマホの交通案内アプリで経路検索をする。「時間が早い」「乗換えが少ない」「安い」という優先事項のもと一瞬で経路が提示される。が、うーん、なんか違和感。なぜだろう。到着したい時刻よりもかなり早い時間のものしか出てこない。1本後を検索すると1時間後。あれれ?北陸新幹線って1時間に1本しか走ってなかったっけ?? そこは私も実は一応自称テツ。わかった、速達タイプの新幹線「かがやき」を使った経路が出てきていないのだ。「はくたか」で大宮駅でJR埼京線に乗り換えて恵比寿に行かせる経路しか出ていない。じゃあ、「かがやき」で東京駅まで行き、そこからベタかもしれないが山手線に乗ってみたらどうだろう。ここで時刻表を取り出してみると出発時間が30分遅い「かがやき」は、はたして存在した。それを利用した際の到着時間の差はわずか2分遅いだけであった。
 この話を成人の自閉スペクトラム症の友人に話したところ、「先生、新幹線の利用時間によって、乗り換えを上野にするか、大宮にするか、東京にするかは違ってきますよ。そんなのあたりまえじゃないですか」とたしなめられた。そっか、上野という選択肢もあるのか。。。脱帽。
(2015年時点での話です)

 このようにPCやスマホなどの便利な機械・ツールは、私たちに確かに一見「最善の方策」を端的に提示してくれますが、そこに「遊び」や「あいまいさ」といった要素をはらませることは一切許しません

 男の子なら一度はプ○レールにはまって遊んだこともあるでしょう。あの頃、試行錯誤しながら夢中になってレールをつなげた経験は、その時限りの過去の遺産ではなく、私たちの知識にそして生活に確かに根付いているはずです。しかし、少なくとも私は、使えない、使う機会がない、使わないことをスマートだとする価値観にとらわれてしまっているのが現状です。紙の時刻表を買うことももう20年近くしていません(当時は時刻表を片手に青春18きっぷで限られた5日間どこに行こうか、どこまで行けるかをしきりに考えたものです)。
 ものの認知や理解の仕方が、定型発達の人と違うといわれる発達障害者の方たちは、そうした意味からすれば、ある部分では私よりも生き方を楽しんでいるのではないかと思ってしまいます

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 わが国において、なぜ自閉スペクトラム症の人にテツが多いのかということを検証した研究論文は、残念ながら以下のものしかありません。

奥平俊六(2009)自閉症の人はなぜ電車が好きなのか―絵画作品をてがかりに―.藤田治彦(編)芸術と福祉―アーティストとしての人間 (阪大リーブル014).大阪大学出版会.

 彼らが鉄道の何に魅せられるのか、鉄道に関する記憶のメカニズムはどのようになっているのか、はたして鉄道のない国に生まれついた人はどうなるのか、謎はつきません。学際的な見地からこの謎に迫ることの重要性や面白さを感じるのは私だけでしょうか? 

 私が発達障害のある人と関わるようになってから20年来の研究課題、どなたかこの研究を一緒にしてみたい、という方はぜひお声がけください。

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