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習作 凪

どこかに行きたかったけど、どこに行きたかったのかを忘れてしまった。なんど思い描いてもどこか見たことがあるような景色しか思い描けない。

遠い場所という幻想を追い求めているだけなのかもしれない。

どこか遠く、ここでない場所。

僕が生まれたのは、春の風が三番目に通るちいさな村だった。

小さな丘が二つ、一つには教会があって休日はそこに村中の人が集まる。もう一つの丘からは春の風が二番目に通る村が見える。

僕は三番目の村に住んでいた。

僕らの家は二つの丘間のへこんだところにあって、朝のにわとりが鳴くくらいの時間になると、山の影が落ちて山に引っかかったみたいに見える。

僕は三番目の村に住んでいた。

教会からこっそり抜け出しても怒られなかった。帰るのが遅くても怒られなかった。夜遅くまで起きていても怒られなかった。きっとどこかへ行ってしまっても怒られない。

僕は三番目の村に住んでいた。

にわとりが鳴いても、山の影が僕の家に落ちなかった日、僕はその村を出た。二番目の村を横目に、三番目の村を後にした。

習作 凪

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