Energy availabilityは女性だけの問題?

 いい感じにレポートが書けた(らしい)ので、noteに記載しようかなと。やっぱりエネルギー摂取量、栄養学の知識は、ATには必須項目だと感じました。

【課題文献】Loucks AB, et al. The female athlete triad: do female athletes need to take special care to avoid low energy availability? . Med Sci Sports Exerc. 2006;38(10):1694-1700.

A) Female athlete triad(女性アスリートの三主徴)について

 Female athlete triad:女性アスリートの三主徴は以前、摂食障害、無月経、骨粗鬆症の三つの女性アスリートに生じやすい障害を指した1)。しかし、2007年にアメリカスポーツ医学会は、Low energy availability、機能性視床下部性無月経、骨粗鬆症の三つに修正した1)。主要な修正点は、摂食障害がLow energy availabilityとなったことである。月経異常や骨密度の低下は、摂食障害がトリガーであると以前は考えられたが、摂食障害ではない場合でも、月経異常や骨密度の低下が生じる。その理由は、過度なスポーツ活動量によるEnergy availabilityの低下である。
 女性アスリートの三主徴について、異論を唱える人もいる2)。彼らは、否定的な意見を持つ人と公的な健康機関が、スポーツや運動に関連する行為や機能的変化の情報から病理学的状況として女性アスリートの三主徴という概念を作り出し、スポーツに積極的に参加しようという流れに反して、女性アスリートがスポーツに参加することを妨げるものになり得るという主旨を述べている2)。詳細に言うと、三主徴の研究は、「対象がアスリートではなく、一般人である」、「実験室で急性的に行われ、長期的に当てはまらない」などの根拠が述べられ、彼らは女性アスリートには当てはまらないと考えている2)。

B) Energy availabilityについて

 Energy availabilityは、総エネルギー摂取量から、スポーツ活動で消費したエネルギー量を引いて算出が可能である。関連する用語として、Energy balanceがあげられる。Energy balanceは、エネルギー摂取量と総エネルギー消費量の差である。
 スポーツ活動で消費したエネルギー量が増え続けても、総エネルギー消費量は、ある点を変えると頭打ちして一定になるが、これをConstrained total energy expenditure model:制限的エネルギー消費モデルと言う3)。制限的エネルギー消費モデルにおいて、総エネルギー消費量が一定の状況下で、スポーツ活動によるエネルギー消費量が増え続けると、その他の状況で利用可能なエネルギー消費量(Energy availability)が減少する。この「その他」には、身体の恒常性を維持する基礎代謝に必要なエネルギー量が含まれる。Energy availability とEnergy balance の違いは、総エネルギー消費量を細分化している点である。Energy availabilityは、制限的エネルギー消費モデルへの応用が可能であり、Energy balanceは持たないメリットである。
 Energy availabilityの測定は厳密に言うと不可能である。主な方法として、エネルギー消費量は間接熱量計で測定されるが、エネルギー摂取量は食事調査で推定される。推定されたエネルギー摂取量と測定されたエネルギー消費量の差で、Energy availabilityが算出される1)。これらのことから、Energy availabilityの測定は不可能であり、推定で算出されることを示している。

C) Low energy availabilityについて

 Low energy availabilityとは、文字通り「Energy availability」が「low」である状態を指すが、Energy availabilityが除脂肪体重1kgあたり30kcal/日を下回ると、黄体形成ホルモンの律動性が乱れ1),2)、また、40kcal/日を下回ると骨密度が低下し得る1)。そのため、これらの数値がLow energy availabilityの目安と考えられる。
 Low energy availabilityについても、異論を唱える人もいる2)。A)の女性アスリートの三主徴でも述べたが、実験やスポーツ現場の対象者で各々の背景が異なることから、異論を唱えている。

D) IOCが提唱する「relative energy deficiency」と、「female athlete triad」および「low energy availability」との関連

 2014年にIOCは、female athlete triadに代わる、relative energy deficiency in sport(RED-S)を提唱した4)。RED-Sは、相対的なエネルギー不足による多様な生理学的機能に加えて、心理学的機能の損失を表す4)。ちなみに、心理学的機能は、エネルギー不足に先行することもあれば、後行することもある4)。男性もエネルギー不足による身体の不調を生じる事例がある4)ことから、female athlete triadやlow energy availabilityだけでは、生理学的機能や健康、スポーツパフォーマンスへの影響を網羅することは難しく、これらと比較して、RED-SはEnergy availabilityの低下が様々な障害やスポーツパフォーマンスに影響していることを顕在化できると、私は考える。

【参考文献】

1. 木下訓光. 女性アスリートのEnergy availability-課題と実践. 臨床栄養. 2018;134(2):212-217
2. Loucks AB, et al. The female athlete triad: do female athletes need to take special care to avoid low energy availability?. Med Sci Sports Exerc. 2006;38(10):1694-1700.
3. 下山寛之. アスリートにおけるエネルギー代謝および身体組成. 体力科学. 2018;67(5):357-364
4. Mountjoy M, et al. The IOC consensus statement: beyond the Female Athlete Triad--Relative Energy Deficiency in Sport (RED-S). Br J Sports Med. 2014;48(7):491-497.

 p.s.

「飯を食え」と指導者に小中高とスポーツをしていた人は、言われた経験があると思います。「飯を食える奴は、走れる」という言葉も聞いたこともありますが、あながち間違っていないとも思います。

この理由をより分かりやすく説明できるようになることが、この分野における自分の目標です。その後、「そのために何をすれば良いのか?」説明できるようにしたいです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?