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4.四羽のむくどり(あるいは鳴く鳥)

 へえ、最近はそういう宿題があるんだねえ。

 わたしの時は戦後体験を聞くって、じいちゃんたちに電話したけどな。職業かあ、パン屋のほうじゃなく? あ、そう。さっちゃんと被るんか。じゃ、しょうがないよね。パティシエの方が格好がいいしね。わかったわかった。

 でもおばちゃんのお仕事、あんまり一般的じゃないからなあ。

 一言でいうと、相談を聞くのがお仕事だよ。そうそう、保健室の先生とか、お坊さんとかみたいな。困ったことがあると、誰かに話したくなるでしょ? 誰に話したらいいかわからない変なことを、どうしたらいいかって質問しにくるんだよ。それを聞いて、おばちゃんがなんとかできるか、できないなら誰に連絡すればいいか、教えてあげるってわけ。そうだね、オペレーターにも似てるね。

 いやあ、そういう派手なことは、あんまりしないよ。おっ、あの映画知ってるんだ。おばちゃんもあれ大好き。かっこいいよね。現実にも、バチカンっていうところで教会のお勉強すると、資格が取れるらしいよ。ううん、おばちゃんは沖縄へ行った。先生が平和主義で、めったに無理やり追い出したりしない人って評判だったから、そこで学びたくってね。

 でも本当言うとね、本物の霊であること自体が少ないんだ。

 実をいうと、そっちのが困っちゃう。だって、閉めても閉めても開いてしまうドアがあって、これは霊道じゃないですかって。訊かれてもさ、いや、立て付けが悪いだけですよって言いづらいじゃない。新築でさあ、家主に言える? めっちゃ怒られたよ。理不尽だよね、わたしが手抜き工事したわけじゃ、ないのにさ。

 下手に詳しい人も困るよ。マンガみたいに一目見ただけでどういう霊で、どんな事情があってどうしたらいいのか、なんてわかるわけないじゃん。通りすがりのおじさんのさ、名前も職業もわかんないでしょ。おんなじだよ。話をしてみても霊だって、初対面のおばさんにすぐ打ち解けて何でも白状するわけないしさ。

 依頼主も全部話してはくれないし……ええ? ああ、体験談? オッケ、そうだなあ。ドラマチックに? え、うーん。

 この間あった話なんだけどね。家の軒先に空の巣があるんだけど、そこから声がするって言うんだよ。見に行ったら四羽、黒い雛たちが鳴いてたよ。むくどりかなって思ったけど、普通は軒先に巣なんか作らないから、なんかちょっと変だった。

 鳥の言葉はわからないよ。でもなんとなく、何が言いたいのか、わかることってあるよね。多分だけど、ご飯を食べさせて、誰かお話して、遊んで、お母さん帰ってきて、ってそれぞれ泣いてるみたいだった。親鳥がいなくなって、それでみんな死んじゃったんだね。時々誰かが泣き止んで、声が小さいんだ、って呟くの。それですごい音で鳴き始めるのね。喉が潰れて血を吐くまで、それで巣から落ちると静かになる。でもしばらくしたら、また鳴き始めるんだ。

 どうも、依頼主が親鳥を殺して、畑に吊るしたみたいだった。

 雛は鳴くしかないよね。呪うってことも知らない、可哀想な子どもたちだもの。それなのに加害者がうるさい、早くなんとかしろって、せっつくばかりで嫌になったよ。

 しょうがないから、四羽のむくどりたちに言ったんだ。どうして君たちから、探しに出ていかないの? って。まだ飛ぶことも知らない年だったんで、思いつかなかったんだね。巣から出ればいいんだよ、ごはんを探しに行っておいで、お友達と遊んでおいで、って。教えてあげたの。そしたらすぐ飛んでいったよ。ありがとうーって言われちゃって、あの時は本当にこたえたなあ。騙してるみたいでさ、悪いことした気分だった。

 うん。そうだね、きっとどのお仕事も一緒だよ。良いこともあるだろうし、大変な苦労もあるのだろうし。


読んでくださってありがとうございました。少しでも楽しんで頂けたらうれしいです。