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6.ガチョウ抱く卵のひとつ

 六羽のガチョウが巣に座り、それぞれ卵を抱いている。

 アヒルじゃない、ガチョウだよ。似てるけど違うんだ、そこんとこ間違えちゃいけない。アヒルはアヒル、ガチョウはガチョウ。いや、でもひょっとしたら、どっちでも同じかもしれないな。飼い慣らされてブクブク太った、愚鈍なやつらだ。僕は好かないね。

 とにかく、でかくて白い家禽がさ、抱卵しているんだ。

 卵の中身は世界だよ。当然だろ。光があって闇があって、地と天が分かれて海があるんだ。あとは生き物さ。何だよ、差別は良くないぞ。虫も魚も植物も、ひともひとではないものも、平等に全てひとつ生き物さ。

 ただし、一つの卵は孵化しない。

 父親が雁だったのさ。夫は知らないけどね。うん? 細かいことを気にするんだな。エジプトガンで良いじゃないか。あれはいい鳥だよ。オレンジで、目の周りが赤くって。それに、他の水鳥は気が荒くて、別のが近づくと嘴で突っつくだろう? エジプトから来たあいつらだけは、気の良い野鳥だもの。だから母ガチョウもコロッと参っちまったんだろうよ。それとも女の方から、声をかけたのかな?

 とにかく一切がそんな調子で、どいつだかはわからんが、永遠に孵らぬ卵を温め続けるわけだ。だから世界は不完全だよ。何が足りないかだって? そんなこと知るもんか。

 さあ、お話は終わりだ。寝てくれ、さっさと。


読んでくださってありがとうございました。少しでも楽しんで頂けたらうれしいです。