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2.キジバト二羽

 ある森に、キジバトの夫婦が住んでいました。

 いいえ、街で見るような、汚れたあの鳩とは違うのよ。キジバトって、茶色と黒の模様が鱗みたいで、そりゃあきれいな鳥なの。なんて言ったって、あの青い鳥のモデルになった鳥だからね。

 それで、キジバトの夫婦が住んでいたのだけれど、ふたりはとても貧しかったので、一組しか羽を持っていなかったのね。そう、片方が右で、もう片方が左の羽しかなかったの。飛ぶ時はぴったりくっついて、まるで一羽で頭が二つある生き物みたいにね。もちろん、どこへ行くのも一緒だから、それで困ることはなかったのよ。

 でも春になって卵が生まれると、温めるために片方は巣から出られなくなるわね。

 それで夫の方がある夜、餌を探しに出かけたの。そりゃ、歩くしかないわ。しょうがないから木の下で、木の実や虫を喋んで過ごしてた。いつもそうすれば良いだろうって? うん、まあでも、飛べると都合が良いこともあるのよ、きっと。

 そこに近くに住む、狐がやってきてキジバトに話しかけたの。

 なんでも今すぐ、海まで行かなきゃならないんですって。そう、人間でも電車に乗って、何時間もかかるわね。でも夜中に、今すぐなんて無理よ。飛んでいったり、しない限りは。

 狐は後生だから、夫の羽を貸してほしいって頼んだの。海へ行って、用事が終わったらすぐに戻って返すからって。あんまり真剣に頼むものだから、夫も渋々、羽を貸してしまったの。

 そりゃあ、もちろん嘘だわよ。

 でも別に、狐がものすごい悪人だったわけじゃ、ないと思うわよ。誰だって、ズルしたい気分になることはあるもの。なんとなく飛べたら楽だろうなあって思って、ひょっとしたらその時は、本心できちんと返すつもりだったかもしれない。結局返さなかったんだから、でもこのお話では同じことね。

 羽を騙し取られて、妻は夫にひどく腹を立てたわ。

 怒って詰って、それがあんまり続くと怒られる方も、反論したくなるでしょ。それで山中で一番仲が良いと評判だったキジバト夫婦は、まず一羽が巣から出ていって、やがてもう片方もいなくなって、巣には卵だけが残っていたそうよ。

 夫婦に捨てられた卵は、それでも運良く孵化はできたけれど、子どもには羽が一つもなかったんだって。まあ、そうでしょう。親だって一組しか、なかったんだからね。でも幸い足は二本、丈夫なのがあったから、野山を駆け回って案外上手く生き延びたんですって。

 うん? 狐ね。どうしたのかな、片方しかない羽を手に入れても、飛べなかったのは確かだろうけど。

 そうね。そこまでして行きたかったのなら、海に辿り着けてたら、いいわよね。


読んでくださってありがとうございました。少しでも楽しんで頂けたらうれしいです。