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3.三羽のフランスめんどり
三羽のフランスめんどりがいたそうだ。
最初は店にだよ。え? 家畜を売る店さ。子豚とか子羊とか、ひよことか。農家はそれらを買って帰って、家で育てて食べたり乳を絞ったりするんだよ。それで、年老いた農婦が店にきて、とにかく三羽、にわとりを贖った。
めんどりたちは賢いから、近く潰されて食べられないために、どうしたら良いのか話し合った。そうだよ、よく知ってるんだなあ。もちろん君が言うように、にわとりというやつらはたいていばかだよ。でもこいつらはフランスから来た、生粋のマダムたちだぜ。教養があるのさ。なんせ欧州の社交界というところは、おつむが回らないとやっていけないところなんだからね。
それでフランスめんどりたちは、交代で金の卵を産み落とすことにしたんだ。
彼女たちの頭が良いのは、毎日一個だけ、しかも順番は決めずに玉子を産むとしたことだよ。次に誰が金を出すのかわからなきゃ、ばあさんもどうしようもできないからね。少なくとも観察させる時間は稼げるぜ。そうだろう?
でも、この老農婦は目が悪かったんだな。
婦人のにわとり小屋には沢山のニワトリがいて、こいつらは白い玉子しか産まなかった。で、フランスめんどりたちも通常なら白い玉子を産むだろ。ま、茶色なんかもあるかもな。でも金は普通じゃないよ。変な色だと農婦は思って、自宅で食べる用にしちまったのさ。もちろん、たまに妙な玉子を産む新人三羽に気づいて、裏庭の柵の中に除けておいたんだね。
まさか、まだ一人目だぜ。ひどいことなんか、起こりゃしないよ。そんなにすぐ、お話が終わったら困るじゃないか。
老農婦、この金の玉子を毎朝食べた。目玉焼きにしてさ、ぷっくり黄身が盛り上がった、新鮮な美味しい玉子だよ。濃いい黄色で、ほとんど橙色でさ。殻? どうかな。砕いて菜園にでも撒いたんじゃないか。
老農婦はフランスめんどりに朝食の後、いつも「あなたたちの玉子は美味しいのねえ」って褒めてやった。大切にされたよ。裏庭ったって広いんだぜ、日当たり良好、ミミズだってわんさといる。
農婦とフランスめんどり三羽、平和に仲良く暮らしていたよ。
ところが老婆は足を悪くして、面倒が見きれないってんで、フランスめんどりたちを姪に譲っちまった。
この子が貧しくてね。ろくに学校へも通ってこられず、食べるものも困って、女だてらに壁修理の日雇い仕事さ。めんどりたちは戦々恐々だよ、とっとと食われて終わるんじゃないかってね。
でもこの子が、心の優しい良い子だったんだな。
餌を買う金なんかないよ。でも、空き地を回ってたんぽぽだの、飛んできた野生の麦だのを、摘んで毎日めんどりたちに食わせてやったのさ。柔らかな若葉を選り分けてさ、毎日の大変な重労働の、後でだよ。だから、めんどりたちも頑張ったさ。恩返しにきちんと毎日玉子を産む、一つはもちろん金だったよ。
ところが、彼女には学がないから、金というものを知らなかったんだね。
だからって説教臭く、勉学に励めなんて教訓にはしないがね。知識はつまるところ、君を豊かにする力だ。僕なら喜んで学校へ通うけれど、まあ、それは個人の自由で良いだろうさ。
とにかく姪は金を知らず、老伯母と同じく色の悪い玉子だと思って、自分で食べていたんだね。でも殻は捨てなかった。なんせキラキラしているし、玉子ったって高級なんだからさ。
ある時、さる貴婦人の屋敷の壁を直すことになってね。このひとも良い人だった。労働者にやつした娘を気の毒がって、差し入れをくれたりね。娘も感謝して、花壇を直してやったんだ。無償だよ。本当にこの子には驚くね。しかも自分の宝物にしていた、金の玉子の殻で、モザイクまで作ってやったのさ。
これには貴婦人もびっくり仰天。なんせ、姪のモザイクの美しいこと細かいこと、それだけで芸術品と呼べる出来栄えだった。それでね、夫と相談して、このひとがイタリア人だったんだが、連れて帰って職人に弟子入りさせてやったらどうか、って言うんだよ。外国で芸術家なんて、大出世だよ。そうだろう?
それで姪は渡航する前に、三羽のめんどりを兄の家に預けたんだ。
三人目の主とくればどんなやつか、もう想像がつくだろう?
こいつがもちろん貧しく、しかも飲んだくれだったのさ。妻にばっかり仕事をさせて、近所の子どもに当たりちらす、もうろくでなしだよ。
先のふたりが良い人たちだったものだから、三羽のフランスめんどりも、ちょっと気が抜けていたんだな。ついつい金の玉子を続けてしまったのさ。これは確かに、ばかだったね。状況は常に臨機応変、柔軟に対処して行かなきゃだめなのに。
ま、わかるだろ? 金の玉子を手に入れた兄は、次はどいつが金を産むか、どうやったらもっと沢山産ませることができるのか、色々考えた。でも酒で全てが台無しになっているだろ、良い考えなんか浮かびゃしない。結局全員潰して、腹を開いてみようと妻に提案したんだ。愚かだね、全く。
それを聞いていた隣の子が気の毒がって、三羽のフランスめんどりをこっそり逃してやった。どうしたかって? この子は今年、クリスマスプディングの中の、金貨を当てていたんだよ。これを三羽に渡してね、電車で遠くへ行けと言ってくれたのさ。うん、いい子だね。鳥好きはみんな良い子さ。決まってるよ。
もちろん、めんどりたちはお返しをしたよ。殻だけじゃない、金の詰まった玉子をひとつ、ふたつ、みっつ、それぞれ産んで、男の子にあげたのさ。重たいから、いつもよりちょっぴり、小ぶりなのをね。それからありがたい金貨で、フランス行きの切手を買って電車に乗り、とっぴんぱらりという訳さ。
うん、誰も死にやしなかったね。でもまあ、たまにはこういう、毒にも薬にもならない平凡な話もいいじゃないか。
読んでくださってありがとうございました。少しでも楽しんで頂けたらうれしいです。