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13.山に眠る
女あり。
舟にひとり、七つの児を抱え渡る。
腕四本あり、乳房豊かに六つほど腹に連なる。足はなく、足りぬ乳に代わり末児に含ませし、片の目を欠く。
長く砂の海を行く。
昼の暑さ厳しく、これを避け休む。幼しの子、繭を作りこの中にて過ごす。年かさの子、弱き弟妹を飲み込み腹の中にて守らんとす。その上に母、骨を広げ自らの肢体で日の傘とする。女の背、陽に焼け肉落つ。
夜、空に花咲く。
花の色、闇に露降りて移り、雨を赤く染める。女これを飲む。時に髪を糸として魚を釣り、児らの腹を満たす。
長きに渡り海を放浪すも、島一つ見えず。
女すでに髪もなく、空腹の児らの気を紛らわさんと己が指を食ませるも足りず。乳もはや出ず、血も乾き滴りもせぬ。
終には女、骨と皮のみとなった肢体にて、他の弟妹を腹に抱える長子、舟ごと包んで玉となる。
やがて沈み、海底にて眠る。
そこにありし火の山、親子哀れに思い燃える泥を吐きて、母子の繭玉押し上げ島を作る。やがて鳥訪れ、風に種運び、緑豊かな地となる。
されど母子これに気が付くことなく、未だ山頂に眠る。
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