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2.3. マンドラゴラ:マンドラゴラの繁殖

3. マンドラゴラの繁殖


 古代ギリシアの植物学者ディオスコリデスは著書“薬物論”にて、マンドレイクにオスとメスが存在すると記述しているが、これはナス科のマンドラゴラの別種を指したものであり、幻想植物のマンドラゴラは雌雄同体である。


 マンドラゴラは胞子から発芽する前葉体に卵子と精子を形成する、シダ植物に近い繁殖形態を持っている。しかし、奇妙なことにこの有性生殖機能は、別個体が近くにない場合には機能しない。複数の個体が生息域を同じくするときにのみ、マンドラゴラの一個体は(通常は一番大きな根を有するものが)雄株となり、それ以外はすべて雌株となる。精子は水がなければ移動できないため、繁殖は雨期に行われる。受精卵は葉から根の内部へと移動し、やがて新しい頭根となって株を分けるか、しばらくその個体の胴根の中で休眠する。


 マンドラゴラはまた、分裂(株分けとも)という形で栄養繁殖も行う。原産である地中海地方では通常、マンドラゴラが群生することはない。このことから、発生頻度の低い有性生殖より、無性生殖が主流であるとも言われている。栄養状態の良い成熟個体であれば、理論上は問題なく栄養繁殖できるが、若い個体は一般的に行わない傾向にある。生息地に四季がある場合、春から夏にかけて繁殖期となる。頭根から発生する子頭根は、ある程度の大きさになるまで親株に依存し、胴根を発生させることなく、側根を絡ませ合って栄養を共有する。切り離された子株は通常地上に押し出され、動物に食べられたり雨に流されたりするなどして場所を移動した後、そこに根を下ろし別の個体となる(14) 。


 マンドラゴラは、環境的には何の問題もないが枯死する場合に限り、実をつける。この場合、個体が寿命を迎えたか、少なくとも病気などで、これ以上生存できない状況にあると推測される。頭根の上部から根が変化した茎(空中根)が、空中へ向かって伸び、先端にザクロに似た実をつける。実の構造もザクロに似ており、多汁性の果肉の粒が複数現れるが、ザクロよりも赤黒い粒は大きく、種を一切含まない。実がマンドラゴラの生態においてどんな意味があるのか、はっきりとしたことはわかっていない。実と茎を総じて、「マンドラゴラの墓標」と呼ぶ。


(14)時に親株から分離した場所に胴根を伸ばすものもあるが、その場合親株は枯れ、子株がその場所に代わることになる。一度地上に押し出されたものは、基本的に移動せずに胴根を出すことはない。

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