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スライス・オブ・ライフ アドベントカレンダー2023

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人生はケーキ一切れ分。
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#短編

22.ある日の地下鉄駅

 僕は幼い頃、駅でテロに巻き込まれたことがある。  それなりの大事件だったから、多分覚え…

tmk
7か月前
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21.三人のアリア

 最初の少女が亡くなったのは、彼女が九歳になる前の月のことだった。  珍しく乳母と一緒に…

tmk
7か月前
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20.押し入れのトーティ

 僕の部屋の押し入れの中には、人を殺して食った犬が住んでいる。  少なくとも、そういう噂…

tmk
7か月前
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19.恩師欠席

 息子が年頃になってきたので、そろそろ本気で将来を考えるべきかと思い、転校先の見学にやっ…

tmk
7か月前
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18.ルフ

 僕は昔から絶滅した動物が大好きで、特に恐竜と鳥の中間に位置するであろう恐鳥類だけは、い…

tmk
7か月前
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17.七面鳥とわたし

 空を覆う雲は薄いのに、妙に暗い日曜日の午後のことだった。  わたしは外出用のノートパソ…

tmk
7か月前
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16.普通

 手塩にかけて育てた愛弟子が、「やっぱり普通の人間になる」と進路を変えて、しばらくになる。  もちろん魔女になるにしてもひとり立ちする日はやってくるのだし、早い段階で人生の方向が見えたのは、きっと良いことなのだろう。  しかし、それは建前だ。こちらとしてはこの先何年か何十年か、預かり子の育成計画が唐突に打ち切られて、手隙なのである。  いや、ここは正直に言う。  寂しいのだ。あの、泣き虫のみそっかすが、ずいぶん後になるまで夜尿症が治らなかった愛娘が、ひとりで、人間の荒れた社会

15.沈む海

 わたしの田舎にはほとんど知られていないのだが、世界遺産で知られるダードルドアのアーチ石…

tmk
7か月前
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14. ぶどうからコマドリ

 ある冬の日の午後、お茶請けに出したぶどうの中に、呪いを見つけた。  スーパーで買ったパ…

tmk
7か月前
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13.カブラチョ

 雨が降ると、カブラチョが山から下りてくる。  道路にへばりついて、身体を乾かそうとする…

tmk
7か月前
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12.曰く

 男がわたしを捨てたので、怨霊となった。  別の女に懸想した男はわたしが邪魔になって、首…

tmk
7か月前
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11.七つのグリモアと呼ばれるもの

 わたしには、現実ではない記憶がある。  住んでいた隠れ里に、たくさんのヒトがやってきて…

tmk
7か月前
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10.本とヒトと境界

 とにかくわたしは、幼少から境界の曖昧な子どもであった。  常識と言い換えることもできる…

tmk
7か月前
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09.テセウスの家

 ロンドンに来たことがある人だと、ブルー・プラークを見たことがあると思う。  ざっくりいうと、偉人がここに住んでいましたよ、と証明する銘板のことだ。スモッグと雨の街では、この鮮やかな青がすごく目立つ。知らなくても、つい目が向いてしまうくらいに。  例えばバス停の前にあるやつは、十八世紀の学者アレクサンダーさんが二年くらい住んでましたよ、と書いてある(何をしたアレクサンダーさんかは、知らないけど)。  その情報から、かのマンションは築百五十年を超えているのがわかる。  観光客の