見出し画像

旅と酒場と男と女 ~京都で交わした約束~

外国人と話がしたい。
外国人と仲良くなりたい。
その一心で六本木に入り浸っていたのは20歳前後の頃。
外国人が集まるバーで酒を飲み、英語もできないのに片っ端から話しかけていた。

そのときの経験が生きたのは、関西バイク一人旅の2日目。
バイクで世界一周を経験した方が、京都にオープンしたバックパッカー&一人旅専門の宿でのことだった。


チェックイン後、簡単な説明を受けてから、部屋に荷物を置きに行く。
部屋には二段ベッドが4台。
驚いたことに、ここは男女共用の部屋だ。

部屋に入り、簡単な挨拶を済ませると、俺は一番ドアに近いベッドに下段に腰を下ろした。

目があったのは、隣のベッドの下段にいたアリス(仮)。
ニコッと笑みを浮かべて手を振ってくれた。
タンクトップからこぼれそうなほど豊かな胸が目のやり場に困るタイプのカナダ人だ。

その上にはジャクソン(仮)。
彼もカナダから来たらしい。
屈強な身体を持つナイスガイだ。

奥のベッドにはオーストラリアからやってきたカップルが上下を陣取っていた。
オリバー(仮)とミア(仮)。
彼らはいつも2人で行動することが多く、あまり交流はなかった。

もう一つのベッドには、下段にアンディ(仮)、上段に純也(仮)。
純也は京都にいる友人に会いに来たそうで、早々に部屋を出て行ってしまった。
アメリカから来たアンディは非常に人懐っこく、日本語も少し話せる。
この部屋の通訳係もやってくれた。

アンディは俺の1時間前にここへ来たらしい。
フレンドリーで意気投合するのに時間はかからなかった。


「セントウ ニ イッテミタイヨ。」


すぐにでも飲みに出たかったけど、アンディがそういうので「じゃあみんなで行こう!」となった。
ジャクソンとアリス、そして別の部屋に泊まっていたメアリー(仮)も一緒に行くことになった。


・体を洗ってから湯船に入る
・湯船にタオルは入れない
・使ったイスや桶は元に戻す
・身体を拭いてから出てくる


男女が湧かれる前に基本的な銭湯のルールを説明して、どちらかが出たくなったら合図を声をかけることにした。

男湯には「水風呂」「温浴風呂」「高温浴風呂」の3つがあった。
42℃~45℃の「高温浴風呂」は2人とも熱くて入れないらしく、俺が

「Look at the YAMATODMASHII!」

と言って肩までつかると驚いていた。
触発されたアンディも「高温浴風呂」に肩までつかり、俺よりも長時間つかるほどの根性をみせた。
大和魂なんて言うんじゃなかったと後悔したよ。

銭湯からの帰り道、アンディが言った。


「ミンナデ イザカヤ イコウヨ!」


全員大盛り上がり!
コンビニの店員さんにおすすめの居酒屋を教えてもらい、みんなで行くことにした。

宿に荷物を置きに戻ると、俺のベッドの上段に美紀(仮)がいた。
美紀は俺と同じ年齢で、小学校までは俺と同じ埼玉に住んでいたらしい。
英語もできるし才色兼備。
他のメンバーともすぐに打ち解け、一緒に居酒屋に行くこととなった。


日本人、カナダ人、アメリカ人の男女6人で居酒屋。
飲みに行くことは多い、こんなメンバーで飲む機会は後にも先にもこの時だけだろう。
言葉は通じなくてもコミュニケーションはとれる。
そう感じる一方で、この場で英語ができないのは俺だけ……。

「英語を話せると、 10億人と話せる。」

某英会話スクールのキャッチコピーが、ここまで胸に刺さったのも初めてだ。


日本酒が飲みたいというアリスに、お酒を選んであげていると「明日バイクの後ろに乗せて欲しい(通訳:美紀)」と言ってきた。
するとタンデムは初めてだという美紀も乗りたいと言い出した。

答えはもちろんOKだ。
こんなこともあろうかと、ヘルメットをもう一つ持ってきている。
早朝の京都をアリスとドライブ。
戻り次第、美紀を乗せて金閣寺と大徳寺へ行くと約束した。

なんて楽しいんだ京都!
1泊の予定だったけど、ずっと京都にいるのもいいかも。
明日、オーナーに連泊できるか聞いてみよう。


翌朝、アリスを後ろに乗せて京都を巡り宿に戻ると、オリバーとミア、ジャクソン、純也の4人がチェックアウトの手続きをしていた。
前日に仲良くなったジャクソンとはハイタッチをして別れた。

連泊する美紀、アリス、アンディの3人からの誘いもあり、俺も連泊できるか聞いてみたけどダメだった。
今日は予約で満室だってさ。
アンディが残念そうな顔をして言った。


「タクヤ、アメリカ アソビニオイデ!
ツギニアッタトキハ オレガ ノゾミヲキイテアゲルカラ!」


グッときた。
たった1日しか行動を共にしていないのに、こんなこと言ってくれるのか。
アンディとは連絡先を交換し、ハグをして別れた。

美紀に今日は大阪に滞在予定だと伝えると、

「電車ですぐなんだし、こっち(京都)来ちゃえば?
てか、私が大阪行こうかなー」

なんて言い出した。
でも、彼女は就活で京都に来ていることを知っている。
この日の午後も、翌日も面接が入っていることも知っている。
これがリップサービスなことぐらい、俺にだってわかるさ。


美紀を京都駅まで送り届け、俺は大阪に向けてバイクを走らせた。
今回の京都は本当に最高だった。
宿のオーナーには、キャンセル出たら連絡くれと入ってあるけど望みは薄い。
淋しい気持ちもあるけど、大阪にもきっといい酒場と素敵な出会いが待っているはずだ。
府境を越えて大阪に入ったころには、俺の気持ちも切り替わっていた。


その日の夜、アンディから俺の携帯に着信があった。
まさか、キャンセルが出たのか?
でも俺は今夜の宿も決まったし、何よりもう飲み始めているからどうしようかな。
そんなことを思いながら電話に出る。


「タクヤ、スゴイヨ!
キョウハ、ミンナ オンナノコダ!」


電話を代わった美紀によると、この日はアンディ以外の宿泊者全員が女性だという。
アンディが、部屋のみんなに俺のことを話してくれたらしい。
そしてその日本人(俺)が見つけてくれた居酒屋が素晴らしかったと。
この後みんなで行くんだって。


「おぉ! それは楽しそうだ! みんな楽しんで来いよ! 俺も大阪を満喫するからさ!」


そういって電話を切り、俺は生ビールを飲み干した。


アンディ、次に会ったら俺の望みを聞いてくれるって言ったよな?
その望み、今からでも聞いてくれるかい?
今日の宿、俺が京都に泊まるから交換してくれよ。

なんてことを、チラッとでも思ったとか思わなかったとか。


#創作大賞2024 #エッセイ部門

本業で地元のまちに貢献できるように、いただいたサポートは戸田市・蕨市特化型ライターとしての活動費に充てさせていただきます! よろしくお願いいたします!