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わたしが死んでも葬式はしなくていいよ、とは言えなくなった

お葬式って、大変です。
まず、死が突然にやってくるから。

どんなに予感していても、どんなに前兆があっても、やっぱり死は突然です。手帳の中に誰かの死の予定を書き込むことはできない。

埋まっている日常をかき分けて割り込んでくる、死と葬式。
わたしはむかし、「わたしが死んだら葬式はしなくていい」って言ってました。迷惑かけずに死にたいって思っていたからね。
でもそう言えなくなったのは、葬式って故人のためのものじゃないんだなぁって思うようになったからです。

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葬式って、残された人たちのためのものです。
100%、残された人たちのためのものです。

生きている人と死んでいる人の違いって、なんだと思いますか。
わたし、いまいちよくわからない。説明しろって言われたら、あんまりうまく説明できない。でも、もう一緒にいることはできないんだし、しゃべったりすることもできないっていうのはわかる。肉体はいずれ形を保てなくなる。心はどうなるんだろう。心って、死んだらなくなるものかな。

それでも、日常からその人はいなくなる。たしかにいなくなる。

誰かの死を受け入れるって、難しいです。
死んだって認識してから、死んだことを徐々に体に慣らしていくまで、死んだことを徐々に心に慣らしていくまで、時間がかかる。

葬式って、忙しいでしょ?
大切な人をなくして悲しい時に、なんでわざわざあんなにバタバタ忙しいことをしなきゃいけないかって、それは、その悲しみに飲み込まれてしまわないためです。悲しみに飲み込まれて、生きている自分を生きながら殺してしまわないためです。悲しい悲しい悲しい悲しい、それに支配されて、生きる自分をやめないためです。
「故人のために手を尽くす」という行為が気持ちを少し軽くさせる。もちろんね、そんなに簡単なことではない。死っていうのはやっぱり重い。だからこそ葬式っていう儀式は大きくて大変な儀式なんです。妥当なんです。「あの人のために自分が何かしてあげている」ということは、死を前にしてもなお、自分を癒す効果がある。

儀式って大切です。
きちんと手順を踏んで「体験」を行うことで、「気持ち」を整理する。
物理的な動作が、気持ちへ作用する。儀式っていうのは何事も、行為を通して人々の内面を整える作用がある。

葬式は、故人のためのものではない。
残された人たちがこれからもきちんと生きるために、手順を踏んで物理的な動作を踏んで、気持ちを整えるためのもの。

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やっぱりね、人間である以上は、人間として生きている以上は、気持ちと行為っていうのは切り離すことはできないんですね。完全に切り離すことはできない。だからこそ、どちらかに作用すればもう一方にも作用する。
心に作用するために、体を使う。体に作用するために、心を使う。どちらも自然に存在すること。そのうちの一つが、「儀式」。

葬式もそうだし、ちっちゃなことで言えば神社にお参りするのだってそう。ああいうちっちゃな行動一つも、「心」への作用がある。


死んだ自分のために葬式なんてしなくていいよ、っていうのは、まあ死ぬ側の人間からすると簡単に言えることなんです。でも残される側だとしたら?
人間はみんな死ぬし、生きてれば絶対に誰かを亡くす。
誰かを亡くしたとき、特別大切な人を亡くしたとき、なにも物理的な儀式をせずに「気持ち」だけで気持ちを立て直すって、実はとっても過酷なことです。

儀式をして、できるかぎりのお見送りをしてあげて、手を尽くしてあげて。その行為に少しずつ気持ちをのせて、自分から放していく。離していく。

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忙しいから、合理的だから。
いろいろな行為が省略されたり、削減されたりする風向きがある。やらなくていいんじゃない、無駄なんじゃない、面倒だし非合理的だし手間も時間もかかるし。いろいろなことがそうやって、「なくてもいい」って思われてきている時代。

行為がなくても気持ちがあればいいじゃない、って思われつつある時代だと思うんです。

だからこそ、覚えていたいんです。気持ちのための行為があり、行為のための気持ちがあるっていうこと。わたしたちは不完全な人間だから、ぜんぶを「気持ち」だけでは完結できないのだということ。

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わたしはね、いぬの葬式をしたときに思った。葬式があってよかったなって。葬式がなかったら、いぬの死を受け入れるのに、もっともっとすごく長い時間が必要だったなって。もう何年も前の話ですけど。

最後の葬式って、いぬからわたしへのプレゼントだったと思います。
ありがとう、いぬちゃん。
わたしも自分の葬式を、大切な人へのプレゼントにしようと思う。その人にとって必要なら。


まだまだ生きるけどね!笑



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