怒りのない社会を実現したい

私はとても心の弱い人間です。過去に怒られたことをずっと引きずっていて、PTSDも持っています。そんな私からして、今のメディア環境はあまり心地いいものではありません。TikTokを見るのは好きなのですが、突然誰かが怒っているシーンの切り抜きが飛び込んできて、とてもしんどい思いをすることがあります。

残念ながら、怒りを伴う投稿の方が拡散されやすいという研究結果があります(Fan et al., 2014; Lottridge, 2018)。様々なメディアでも、口論を含むシーンがウケが良いというイメージがあるかもしれません(「令和の虎」を思い出してください)。世の中の人は、誰かが論争しているシーンを見たいのでしょうか。私のような心の弱い人間はとてもそのようなシーンには耐えられません。

そんな私にとって「誰も怒らない」という社会が理想なのですが、これは難しい話です。最近話題になっている、石丸伸二氏の例について考えてみましょう。氏は、東京都知事選挙投開票後の日本テレビにおけるインタビューで、威圧的な対応をして話題になりました。興味深いのは、これに関して意見が真っ二つに分かれていることです。一方は、悪いのは日本テレビだと言い、失礼な質問をした日本テレビを糾弾する意見。もう一方は、石丸氏の対応がパワハラ上司のそれだとして、石丸氏を糾弾する内容です。

こうした事態に対し石丸氏本人は、「善意には善意で、敵意には敵意で返す」と弁解していますが、これがこの問題の難しさを端的に表しています。確かに、日本テレビ側(質問をした古市氏)に敵意はありました。私は見ているだけでつらかったのですが、石丸氏はそれに敵意で返しました。
つまり、「怒り」とは武器なのです。「相手も武装しているから自分も武装するしかない」・・・こうした発想が、人々をハラスメントへと追いやるのだと思います。なので私は、核・軍縮会議のように、人々から怒りと敵意を少しずつ取り除いていくことを何らかの形で啓発していく必要があると思っています。

また石丸氏は、元アイドルの方を詰め倒した件についての弁解としては、「真剣勝負」「(生易しくすると)相手もプロとしてやってるなら失礼」という旨の発言をされていますが、これは典型的なパワハラの言い訳だと思います。別に石丸氏が悪いと言っているわけではなく、これがパワハラの理由としてまかり通る世の中が私は恐ろしいのです。相手を傷つけた後に「真剣に向き合っているのだ」と言ったところで、相手を傷つけた事実は変わらないのです。理由は二の次です。それで誰かがPTSDになったらどうするのでしょう。

Fan, R., Zhao, J., Chen, Y., & Xu, K. (2014). Anger is more influential than joy: sentiment correlation in Weibo. PLoS ONE 9(10): e110184
Lottridge, D., & Bentley, F. R. (2018). Let's hate together: How people share news in messaging, social, and public networks, Proceedings of the 2018 CHI Conference on Human Factors in Computing Systems, pp.1–13,

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