Tsukasa Tanihara(谷原つかさ)

社会学者。専門は計量社会学、労働社会学。研究対象はソーシャルメディア、マスメディアにお…

Tsukasa Tanihara(谷原つかさ)

社会学者。専門は計量社会学、労働社会学。研究対象はソーシャルメディア、マスメディアにおけるコミュニケーション等。

最近の記事

ネット世論から見た2024年衆議院選挙

私の本は過去のものになった 今年の8月に『「ネット世論」の社会学」という本を出し、ネット世論は必ずしも実際の世論のバロメータとはならないということを書いたのですが、今回の選挙でそれは「昔の話」となりました。 時代を読めず前著を書いてしまったことへの懺悔として、今回の衆院選を分析した記事を速報的に記しておきます。 各政党に対するX上の世論 選挙期間中のX上の世論がどのようなものだったかを調べたのが以下のグラフです。 データ取得方法:Yahoo!リアルタイム検索の「話

    • 「議論で決着」の暴力性

      人は傷つく 人を殴ったり蹴ったりしてはいけない。これは我々の社会では共有されています。しかし、人を怒鳴ったり恫喝したりしてはいけない、ということは今一つ共有されていないように思います。 私は、—社会学者失格と言われてしまうかもしれませんが―議論があまり好きではありません。なぜなら、傷付くからです。 強い否定を伴う言葉は私にとってはまごうことなき暴力なのです。ダメージは心に深く刻み込まれ、後からぶり返します。比較的短期で回復する身体的暴力のほうがまだましです。 それで

      • 多数派は常にすでに配慮されているということ

        配慮される・していること この記事は以下の記事の続きです。 2016年、障害者差別解消法が制定され、合理的配慮が雇用主に義務付けされました。これは診断のあるなしにかかわらず、手帳のあるなしにかかわらず、障害者雇用か一般雇用かにかかわらず、困難のある人が企業に合理的配慮を求めた場合、提供が求められるというものです。 あくまで当事者が求めた場合、というところが難しいのですが(言い出せないような環境にいる方も多くいらっしゃると思います)。 しかし、いわゆる健常者や定型発達

        • ニューロダイバーシティから「やさしい社会」を構想する(立岩真也(2014)『自閉症連続体の時代』)

          脳の多様性 みなさんは、「ニューロダイバーシティ」という言葉はご存じでしょうか。この言葉は知らなくても、「発達障害」という言葉は知っているのではないでしょうか。 発達障害は主にASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動症)、LD(学習障害)を含意していて、知的障害はないけれども社会では生きにくい特性をいいます。今回はこの中でも、社会性や対人コミュニケーション、想像力の障害であるASDについて考えたいと思います。 考えるヒントを与えてくれたのは、昨年お亡くな

        ネット世論から見た2024年衆議院選挙

          解雇規制の緩和と労働市場の流動化は関係がない(自民党総裁選)

          急に話題にされた解雇規制の緩和 自民党総裁選への立候補表明会見で、小泉進次郎氏が解雇規制の緩和に言及して話題になっています。河野太郎氏も、労働市場の流動化に向けて解雇規制の緩和に意欲的であると表明しています。 ジョブ型とメンバーシップ型 解雇規制の緩和、ということを考えた時に、両者が念頭に置いているのはアメリカだと思いますが、日本とアメリカでは根本的に雇用慣行が異なります。以下の記事で述べた、ジョブ型とメンバーシップ型の問題です。 日本において解雇規制を緩和したとこ

          解雇規制の緩和と労働市場の流動化は関係がない(自民党総裁選)

          情報流通プラットフォーム対処法 重要な一歩

          2024年5月に、情報流通プラットフォーム対処法が成立しました。専門家ととしてコメントしておかねばと思いましたので、ここに記させていただきます。 私の所感を一言で述べさせていただくと、この法律は「重要な一歩」となると信じています。 法律の概要 法律の目的は、誹謗中傷被害等の違法・有害情報に対処するため、大規模プラットフォーム事業者に対し、①対応の迅速化、②運用状況の透明化に係る措置を義務付けることです。 ①対応の迅速化 ・削除申出窓口・手続の整備・好評 ・削除申出への

          情報流通プラットフォーム対処法 重要な一歩

          『「ネット世論」の社会学:データ分析が解き明かす「偏り」の正体』(NHK出版)

          【新刊が出ました】 昨日8月9日、私の新刊『「ネット世論」の社会学:データ分析が解き明かす「偏り」の正体』(NHK出版)が発売になりました。 新書なので、可能な限り平易な記述を心がけ、読みやすい仕上がりとなっています。値段も1,000円前後なのでそれほど高くありません。皆さんぜひお買い求めください。 「世論」をめぐる様々な学問分野の理論を参照し、記述統計を中心とした緩めの統計分析と絡めてネット世論の在り様を論じています。 2021年衆議院選挙、2022年参議院選挙、2023

          『「ネット世論」の社会学:データ分析が解き明かす「偏り」の正体』(NHK出版)

          人事の組み立て(海老原嗣生, 2021)

          「ジョブ型」の誤解私が労働社会学を離れた理由として、私が研究することの比較優位がないな、と思ったことがあります。私は労働問題と戦ってきた弁護士でもないし、企業で人事に関わってきた確かな経験があるわけでもありません。 しかし専門を変えた今でも、雇用や労働に関する文献は好きなので読んでいます。今日紹介したいのは、雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏の最近の著書です。氏はリクルートでキャリアを積み、10年ほど前から雇用ジャーナリズムの世界で活躍しています。 10年ほど前に労働法学

          人事の組み立て(海老原嗣生, 2021)

          なぜ日本ではコロナワクチン忌避が控え目だったのか

          この記事は、私が最近書いた以下の論文の要約です。 Tanihara, T. and Yamaguchi, S. (2023), "How was the coronavirus vaccine accepted on Twitter? A computational analysis using big data in Japan", Global Knowledge, Memory and Communication, Vol. ahead-of-print No. ahe

          なぜ日本ではコロナワクチン忌避が控え目だったのか

          ファクトチェックの効用:その③ 大規模実験の結果

          近年、ファクトチェックの効果を測定するために大規模な実験が行われました。ジョージワシントン大学のPorter准教授とオハイオ州立大学のWood助教授は、2020年9月から10月にかけて、アルゼンチン、ナイジェリア、南アフリカ、イギリスの被験者を対象に実験を行いました[1]。 これまでのファクトチェックに関する研究は、ほとんどがアメリカで行われたものだったので、人種、経済、政治的に多様だけれども、IFCNが認証しているファクトチェック機関が存在しているこの4か国を選びました。

          ファクトチェックの効用:その③ 大規模実験の結果

          国葬当日のTwitterの状況について深層学習で分析してみました。

          国葬当日のTwitterの様子について分析しました。 【方法】 1.9月27日国葬当日、「国葬」を含むツイートを全て取得(309,209ツイート) 2.ランダムに取得した1,000ツイートについて、目視で分類。これを教師データとする。マイニングの結果、「国葬反対」、「国葬賛成」、「ニュートラル」、「国葬反対派への軽蔑」に分類できました。 3.BERT(ディープラーニング)で推論 【結果】 「国葬反対」ツイート:89,965ツイート 「国葬賛成」ツイート:35,761ツイー

          国葬当日のTwitterの状況について深層学習で分析してみました。

          ファクトチェックの効用:その2「政治家が発言に慎重になる」

          ファクトチェックは抑止力になり得るという研究も提出されています。ダートマス大学のNyhan教授とReifler教授は、2012年に、米国の9つの州でフィールド実験を行いました。9つの州の州議会議員を、介入グループ、プラセボグループ、統制グループの三つにランダムに分け、次のようなレターを送りました。 介入グループ:疑わしい発言をしたことが発覚した場合、議員の評判が損なわれる危険性を喚起する手紙 プラセボグループ:選挙の正確性を監視しているという手紙 統制グループ:手紙を送らな

          ファクトチェックの効用:その2「政治家が発言に慎重になる」

          ファクトチェックの効用:その1「ワクチン接種に前向きになる」

          ファクトチェックにより、人々はワクチン接種をポジティブに考えるということは科学的に検証されています。 カリフォルニア大学のZhang教授らは、1198名を対象に大規模なオンライン実験を行いました[1]。実験参加者は、Twitterの画面で、ワクチンに関する以下の5つのフェイクニュースのうちいずれかに接しました。 ・米国ワクチン有害事象報告システム(VAERS)によると、昨年のインフ   ルエンザ予防接種による有害事象は、死亡1,080人、入院8,888人を含む93,000

          ファクトチェックの効用:その1「ワクチン接種に前向きになる」

          日本のTwitterは世論を反映しない?:データ分析から明らかにする選挙期間中のTwitter空間

          イントロダクション 「ハッシュタグで連帯」、「Twitterデモ」という言葉をご存じでしょうか。Twitter上で政治的な意見がバーストし、一つの運動にまで進展することを言います。2020年5月に、「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグが何度もツイートされ、トレンド入りしたことを記憶している方もいらっしゃるでしょう。 Twitterは今や立派な政治プラットフォームになっています。誰でも自分の意見を表明できる貴重なメディアです。国会論戦において、Twitterで

          日本のTwitterは世論を反映しない?:データ分析から明らかにする選挙期間中のTwitter空間