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【感想】 映画『ザ・ロングウォーク-トラウマと贖罪-』【2023ヨコハマ・フットボール映画祭】

みなさん、スポーツ映画見てますか?

Netflixで相撲ドラマ『サンクチュアリ」』が大ヒットしていたり、聴覚障害で耳の聞こえない女性ボクサーの映画『ケイコ 目を澄ませて』が高い評価を得ていたり、時代はスポーツ映画全盛期なのです(言い過ぎ)。

サッカーも負けてられない!というわけで、サッカー映画をみなさん見ましょう。ちょうど、毎年恒例の「ヨコハマ・フットボール映画祭」の季節ですし。

ヨコハマ・フットボール映画祭とは?

ヨコハマ・フットボール映画祭って何?という方もいるかと思うのですが、平たく言えば、サッカーを中心とした映画を集めて上映する、年に一度の映画祭です!

開催期間中は、映画を上映するだけではなく、倉敷保雄さん、家本政明さんなどが登場するトークショーなども開かれます。6月17日から開催なので、興味がある人はぜひ。

『ザ・ロングウォーク-トラウマと贖罪-』

嫌な予感しかしない

さて、映画祭に先立ちまして、「娘の命が惜しかったら、事前に映画を見て感想を書け」と脅されました。幸いにも私に娘はいませんが、イマジナリー娘をひどい目に合わせたくないので、書くことにします。

去年も『サンシーロの陰で』というインテルユース残酷物語の感想を書きましたが、かなり面白い映画でしたね。私が今回選んだのは、『ザ・ロングウォーク』という作品です。

タイトルを聞いたとき、おお、これはジェフユナイテッド千葉がJ2からJ1に昇格する長い道のりを描いたドキュメンタリーだな、と思ったのですが、全然違いました。また、うっかり「こんなん徒歩でいけるだろ」と町田のホームスタジアムに歩いて行ったら登山になってしまったという遭難映画でもありません。

『ザ・ロングウォーク』はPK戦に関するドキュメンタリー映画です。満員の観客の声を聴きながら、PK戦でセンターサークルからペナルティ・スポットまで一人でとぼとぼと歩くその道のりの長さから、「ロングウォーク」というタイトルがつけられています。

この距離はキツい

PK戦ってのは、他のスポーツでは中々見ないスタイルの決着のつけ方ですよね。ラグビー、バスケ、アメフト、野球などの延長戦のある競技でも、時間を延ばして、決着がつくまでやるわけです。基本的には同じルールで同じ競技を行うわけで(野球はタイブレークをしたりしますが)、サッカーのPK戦のように同じボールを使っているということ以外は全くルールの違うことで勝者を決めるというのは、ほとんど見たことがありません。M-1の最後にモノマネで王者を決めるようなものでしょうか。

さらには、かかるプレッシャーが、サッカー自体とは比較になりません。今まで11人+ベンチで背負ってきた責任が、すべて自分のキックだけにかかってくるわけです。PKはキッカーが有利ですが、だからこそ失敗したときのダメージも大きくなります。また、120分を戦って決着がつかなかったスタジアムは異様な雰囲気に包まれているわけです。観客の歓声とも悲鳴とも区別がつかない声は、非日常の極みでしょう。さらに、W杯などのビッグタイトルなら、カメラの向こうに何百万人という目が自分だけに注がれるわけです。緊張しないわけがありません。

絶対に普通じゃいられない

そういったPK戦にまつわるこもごもを描いたのが、この『ザ・ロングウォーク』です。様々な登場人物が出てきますが、一番面白かったのは、「イングランド代表」であると断言しましょう。PK外した選手や止めたGKがたくさん紹介されるんですけど、イングランド代表はかなり尺を取って紹介されているのです。

イングランド代表といえば、W杯では1990年、1998年、2006年、EUROでは1996年、2004年、2012年、2021年とPK戦で敗退しており、「PK戦敗北界ののトップランナー」「PK戦になったらもうそのまま帰れ」「90分でどうにかしろランキング1位」としてその名を馳せています。

2006年W杯失敗のジェイミー・キャラガー大先生
2012年EURO失敗のアシュリー・ヤング大先生

そこで実際に失敗した選手たちが話す内容は、非常に興味深いものでした。キャラガーは延長後半まで出場がなく、PKのために出場した挙句に失敗しているのですが、「そんな使われ方するとか一言も聞いてなかった」と言ってます。アシュリー・ヤングもピルロがパネンカ(ゆるい浮き球をど真ん中に蹴ってGKのタイミングを外す)の後に思いっきりクロスバーに当てて「ついてなかった」とか半笑いで答えていました。二人とも「エリクソンが悪い」「ホジソンが悪い」と言いたいのを寸前でこらえているかのようで、めっちゃウケます。でも、実際彼らだけのせいではないと思うんですよ。2006年とか、キャラガーの前にランパードもジェラードもおもっくそ止められてますしね。

落胆のジェラード兄さん

そもそもイングランド代表はPK戦を「運の問題」と軽視して練習もロクにしていなかったことが、このドキュメンタリーでは明らかにされています。確かに、PK戦の練習とかめちゃくちゃ嫌いそうですよね、イングランド。しかし、それで1996年に実際自分も失敗したサウスゲート監督がきちんと練習した結果、2018年のW初のPK戦での勝利につながったのです。まあ、その後2021年決勝でイタリアにPK戦で負けてるんで、やっぱりだめじゃねーか、と思ったりもしたのですけれど。

この他にも、2006年にランパードとジェラードを止めたポルトガル代表GKリカルド、2014年W杯オランダ代表でのPKピンチヒッターGKクルル、2014年にスアレスの「ザ・ハンド」によって勝利を奪われたアサモア・ギャン、あのパネンカの発明者である元チェコ・スロヴァキア代表アントニーン・パネンカなどなど様々なPK戦にまつわる登場人物が現れます。個人的には途中で謎の式を書き出して物理的にPK戦を科学するおじさんが気になってもっと出して欲しかったのですが、大変満足しました。

謎式

このほかにもいろんな映画が上映されているので、ぜひぜひヨコハマ・フットボール映画祭に足を運んで、ご覧ください。

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