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スタートアップを脅かす景気という魔物

コロナショックが吹き荒れる中、今後の景気動向を意識した経営が非常に重要です。しかし、今僕のいるスタートアップ界隈というのはどうしても成長が基本になり、イケイケドンドンな雰囲気があります。

特に現在は2012年にはじまったアベノミクスにより「いざなみ越え」と言われるほど、景気拡大局面が続いています。また、前回のリセッションであるリーマンショックからもう10年以上経っています。つまり、創業からまもない多くのスタートアップにとっては、追い風が吹きっぱなしなのです。

プロダクトの成長を、自分たちの力だけだと過信しているか、マクロ環境のおかげもあると思えているかどうかは大きく違います。金融業界関係者の多くは「いつ次の落ち込みが来てもおかしくない」そう思いながら日々生きているはずです。

景気サイクルとは何か

すべての企業にとって、経済情勢というのはとても大切です。景気が良ければ顧客の財布は緩み、また悪ければ締まります。そのため、自社の努力云々以前に、この経済情勢の風に乗れるのか、はたまた逆風として受けるのかは企業にとって死活問題になります。

また、景気はずっと良い状態が続くことはありません。残念ながら常にサイクルがあります。現在の日本は、アベノミクスの中で、2012年から続く追い風の中にいますが、まさに今はコロナショックの影響を受ける企業も多く見られます。同様に、バブル景気、その崩壊、リーマンショックなどは記憶に新しいものです。さらにさかのぼれば、神武景気などもありました。

景気サイクルは主に4つの波があると言われていて、以下のように名前も付けられています。

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こういった景気サイクルのことを“シクリカル”と呼びます。そして、証券業界では、景気変動の多い銘柄(企業)のことを、“シクリカル銘柄”と呼んだりします。

シクリカル(しくりかる)
分類:経済
英語表記はCyclical。循環的な景気変動のこと。代表的なものに、景気の回復、拡大、後退、悪化が繰り返し表れるビジネスサイクルがある。株式市場において、景気の変動によって上昇したり下落したりする銘柄をシクリカル銘柄(景気敏感株)という。

出所:野村證券「証券用語解説集」
https://www.nomura.co.jp/terms/japan/si/cyclical.html

景気影響を何倍にも増幅して受ける恐怖

ここでいう「シクリカル銘柄(景気敏感株)」といわれる企業が多く属する業界は、特に景気の影響を受けるため、景気動向をしっかりウォッチしておくことが大切です。あなたの会社はシクリカル銘柄でしょうか?もしそうなら、投資家は景気後退局面ではあなたの会社を一気に評価しなくなるかもしれません。大丈夫ですか?

景気がよくなる時はいいです。景気が+1良くなった時に、+2の追い風が吹くのならば、最高ですよね。しかし一方で、悪くなる時には景気が-1悪くなっただけで、あなたの会社は-2悪くなるのです。これが3倍、4倍なら…めちゃくちゃ怖いです。

特に今まではアベノミクスの中、多くのスタートアップは基本的にはプラスでしか景気影響をうけていませんでした。そのため、プラス影響を4倍で受けていたのに、それを自分の力だと過信しているスタートアップもあるかもしれません。あなたの会社は大丈夫でしょうか。

シクリカルな業界を知る

では、どの業界がシクリカルなのでしょうか。景気変動影響の“倍率”が高い業種のランキングを見てみましょう。

東証33業種でβ値の高い業種(過去2年間、出所:東海東京調査センター)
1 非鉄金属
2 機械
3 海運
4 石油・石炭製品
5 ガラス・土石製品
6 電機
7 鉱業
8 金属製品
9 その他金融
10 鉄鋼
11 証券・商品先物取引
12 銀行
13 保険

出所:投資先変わる日本株、業種選別カギはベータ値-内需安定からシフト https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-07-01/PTXWGH6JTSE901

ここでは景気との連動性のひとつの指標としてβ値を見て、ランキングを付けています。β値は株式市場の平均値との比較によって算出されるひとつの指標です。

ベータ値(β値)とは、市場平均に対する個別銘柄の感応度を示す指標で、日本語では「市場感応度」といいます。
ここでいう「市場平均」とは、日経平均やTOPIXなどの株価指数のことです。株価指数に対して、値動きが大きいか小さいかという度合いを数値化したものが「ベータ値」です。

出所:ベータ値とは?リスクの低いポートフォリを作る上で欠かせない指標 https://oneinvest.jp/beta/

逆にβ値の低い業種はインフラ系が多く含まれます。β値が低い業種とはつまり、景気が+1になっても会社としては+0.1にしかならないような会社です。確かに、電気などは景気がよくなっても悪くなっても安定して必要な分を使うだけなので、そこまで影響されなさそうです。

同β値の低い業種(同)
1 空運
2 水産・農林
3 電気・ガス
4 陸運
5 食料品

出所:投資先変わる日本株、業種選別カギはベータ値-内需安定からシフト https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-07-01/PTXWGH6JTSE901

景気動向との連動タイミングを知る

β値というのは、市場平均との連動性を示したものでした。株価は実際の景気の1年弱先行するとも言われています。それに従うと、もし株価がピークアウトしたら、そのあと遅れて企業業績がぐっと悪くなるということになります。そういう点で、株価は景気の先行指標といえます。

このように、世の中全体が動くより先に動いたり、むしろ後にズレたりするので、景気が悪くなったのにまだ自分たちは大丈夫!とか思っていたら、遅れてヤバい波がくるという可能性もあります。業界ごとに、先行・一致・遅行の3つのタイプがあるということです。

例えば広告業界を見てみると、広告業界はもともと景気と一致していたが、だんだんと遅行してきているというデータがあります。

逆に最も先行するといわれるのは半導体業界です。半導体製造装置の需要動向は、景気の先行指標であるとさえ言われています。半導体製造装置に投資をする、投資された装置が稼働する、新しいモノが市場に投入される、経済が活性化する、そういう流れが起きるため、景気の悪いところからの回復に導く起点に半導体製造装置がなります。逆に、そろそろ厳しいと思えば製造装置への投資は控えられ、新しいモノも出てこず、耐えるフェーズにはいるということになります。

あなたの属する業界そして主要なお客様の業界は、景気に先行しますか?それとも遅行しますか?

備えあれば憂いなし、そしてCash is King

景気が悪くなった時に何が起こるのかは、基本的には過去から学ぶことができます。スタートアップ業界の情報はオープンになっていないとか、当時はまだスタートアップがそう大きいものがなかったとか、分からないことだらけだというのは確かです。しかし、想像はできるはずです。そして一般的な格言だけでもきっと役に立つはずです。

景気が悪くなれば、当然スタートアップのファイナンス環境も悪くなるのでしょう。そうなると、P/Lうんぬんではなく、とにかくキャッシュに気を付けなければなりません。ファイナンスは予定より先延ばしになる覚悟をもつ必要があるでしょうし、ファイナンスできるタイミングで多めにしておく必要があるかもしれません。

VCも集めたお金を投資せずに管理料だけ徴収して出資者に返金するというわけにもいかず、すでに立ち上がったファンド償還期限も考えると、VCもまだまだ投資意欲はあるでしょう。しかし、厳しい経済環境になれば、資金はよい企業に対して一極集中するようにも思えます。そうすると、CFOがいないフェーズのスタートアップほど危険ではないかと感じます。

経済の力、景気の力を絶対に舐めない。社会人1年目で見た、あのリーマンショックの光景、日経平均7,000円台の恐怖、あれは僕のトラウマになっています。

弊社も預かったお金を決して無駄にはせず、出すところは出しながら、締めるところは締めています。そしてなにより、気をしっかり引き締めていきたいです。

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