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【ドラマ記録】あり得ないことは無かったよ

あり得ない?あり得ないなんてことはあり得ない

ドラマ「ガリレオ」より引用

 あり得ない、という言葉があまり好きでない。湯川先生の言う通り、あり得ない、なんてことはあり得ないのだ。現実は小説より奇なので、大概の奇想天外支離滅裂有為転変は、結構あっさり起こり得る。同時に、どんなに倫理観に欠いた行為も常識から外れた行動も、あり得ないなんてことは無い。「ありえなーい」と相槌を打つことは、自分の視野の狭さを告白しているようなものだ。
 知見を深めるにあたって、或いは物事を深く観察し推察するにあたって、「あり得ない」と断ずるのはご法度だ。映画「シン・ゴジラ」でも、あり得ないとされたことは全部起こった。提言があった時点で対策を打っていれば、ゴジラ上陸による被害のうち防げたものが、もしかしたらあったかもしれない。
 可能性を「あり得ない」と断じ思考を止めることは、合理的ではない。

 なので、ドラマ「合理的にあり得ない ~探偵・上水流涼子の解明~」というタイトルを見た時は面食らった。

 物事を深く観察し推察し思考を止めない職業ナンバーワンの探偵の、物語のタイトルに「あり得ない」!? しかも、ただあり得ないわけじゃない、「合理的にあり得ない」だ!!
 高倉はタイトルに「探偵」がつくメディアに飛びつく傾向があるのだが、このドラマに関しては二の足を踏んでしまった。このタイトル、この、これは恐らく、当たり外れが極端なやつだ。
 思慮の限りを尽くす探偵が言う「合理的にあり得ない」だとしたら、それはもうめちゃめちゃあり得ないんだろう。仮説に仮説に仮説を重ねた上に更に仮定を検証し検証し推理の限りを尽くしたうえでの「合理的にあり得ない」だとしたら、最高だ。高倉の好みどんぴしゃ。
 他方、人情系の探偵が依頼主なり何かしらの弱者に肩入れして「あり得ない」と喚くという筋だとしたらちょっと、高倉の好みじゃない。人情系の探偵は往々にして合理的な推理をしないので、この場合は「合理的」にもちょっと信用が置けなくなってくる。
 うんうんと悩んだ結果、「でもまぁ探偵だしな……」の気持ちで見始めた。性癖には抗えない。

 以下、ネタバレを含みます。ネタバレやだようまだ観てないよぅという方はどうかご自衛ください。




元弁護士で頭脳明晰、変装を武器とする女探偵・上水流涼子が、IQ140の相棒・貴山伸彦とタッグを組み、さまざまな依頼を超大胆な方法で解決していく。不条理がまかり通る現代の“あり得ない”敵を、“あり得ない”手段で葬る、極上痛快エンターテインメント!

Amazonより引用

 結論から言うと、好みの探偵ではありませんでした。
 先述した当たり外れで言うと、外れの筋書き。人情に熱い女探偵・上水流涼子の口癖が「あり得ない!」なのだ。非人道的なことを平然とやってのけるクソ野郎に「あり得ないから!」と吐き捨て、事務所に転がり込んできた宿敵の娘に「えぇ……あり得ない……」と呟く。たまにアレンジが加わって、「確率的にあり得ない」とか「感情的にあり得ない」とか「現実的にあり得ない」とか、うぅ、「あり得ない」がゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。
 そもそも「あり得ない」という台詞自体、理論を重ねて出た言葉でもなければ仮説検証の末の結論でもない、口癖なのだ。その枕詞に「合理的に」って、それはどうなんだ? 百歩譲って「確率的」はいいとして、「現実的にあり得ない」ってそれは、現実に起こってるんだからあり得ないってことはないじゃん……。

 道理が通らないことをしっかり怒ってくれる上水流涼子の、その信条と気迫はとてもよかった。台詞回しは軽快だし、所作がガサツに見えるものの洗練されているし、アクションシーンもかっちょいい。上水流涼子を演じてくださったのがかの名女優、天海祐希先生なのだから、そりゃあ絵面は最高に決まっている。BOSSの頃からファンです。
 IQが140もある天才イケメン・貴山伸彦のキャラクターもよかった。片手でルービックキューブを揃えるし、数秒の動画から人の顔面の3Dモデルをいとも簡単に作り上げるし、催眠術も使えるし、盗聴盗撮もお手の物。女性耐性がゼロという点以外がパーフェクト超人という極端ぶりである。定期的に出てきますよね、こういうタイプの天才イケメンキャラ。
 信用していた人に裏切られて、弁護士資格を失い探偵稼業を始めた上水流涼子と、母と妹を火事で亡くし火をつけた張本人かもしれない植物状態の父親を抱える貴山伸彦。互いに自分の過去を積極的に語らないが、心に深い傷を負っていること、その傷が互いに関わりあうことで癒えること。貴山伸彦が上水流涼子に嘘をついていたことが分かったって、上水流涼子は「こんなことで私たちの関係が壊れるとか、あり得ないから!」と叫んでくれる。良いバディだ。
 このドラマはそういう、キャラクターの絡みと成長を見て楽しむドラマだ。ストーリーはともかくとして、バディものとしてはとっても楽しかった。最後の掛け合いが本当に好きなので、いつか使おうと思っている。

貴山伸彦「未練たらたらじゃないですか」
上水流涼子「No no たらたら、I'm サバサバ」
貴山伸彦「何ですかその馬鹿みたいな返しは」

ドラマ「合理的にあり得ない」より引用

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