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きみのはなし #25

 縁の糸が見えるようになった。運命の糸は赤い色をしていると言うが、君と私を繋ぐ糸は青い。青? 青って一体どういう類の縁なんだろう。
 青い糸で結ばれた君と私が恋仲になることはなくて、君は赤い糸で結ばれた人と恋に落ちてあっさりと結婚してしまう。祝辞を述べる私の青い糸は、まだ君に繋がっている。君が新婚生活を始めても、君の子供が生まれても、君が遠くへ転勤しても青い糸は切れない。年始に年賀状を送り合う程度の縁が細々と続く。
 本音を言えば、私の隣から君を奪ったあの赤い糸をぶった切ってしまいたいし、私抜きで幸せになっていく君の近況を知らせる青い糸だって引き千切りたくなる。けれど実行には至らない。君の満面の笑顔が載った年賀状が一枚づつ溜まっていく幸せだって得難い。所詮私は利己的な人間なのだ。
 少なくとも、私が赤と青の糸から想起するものはこれくらいしかない。

 扉のない真っ白な部屋の中央には時計がついた爆弾が置かれていて、起爆装置からは赤と青のコードが伸びている。鋏と「どうぞお切りください」というメモまで置いてある親切ぶりだが、どっちを切ればいいのかまでは教えてくれない。残り時間はちくたくと削られてゆく。
 どうしような、と困る君の隣で一緒に首を捻りながら、青いコードは切りたくないな、と思う。

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