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【読書記録】カラスがいる世界しか

  松原始著「もしも世界からカラスが消えたら」を読んだ。

 カラスが結構なトラブルメーカーだということは知っている。奴らはゴミを漁るし、鳴き声はカアカアうるさいし、フンは落とすし、繁殖期には人を襲うくらい狂暴化する。以前移動無線基地局関連の作業をしていた頃は、「アンテナにカラスが巣を作っていて、作業ができません」という報告を受けたこともある。
 この本では、カラスが消えた場合その穴を誰かが埋め得るか、という話を、生物学的、自然科学的、文化的、宗教的、とにかく「カラス」が登場するありとあらゆる角度から検証している。てっきり生物学的な話に終始すると思い込んでいたら、漫画「鬼滅の刃」で「竈門炭治郎ォ!!北西ノ町ヘ向カエェェェ!!」と喚きたてる鎹鴉の代役がどの鳥になり得るかといった話がはじまるので、面食らってしまった。そうだよな、カラスがいない世界には鎹鴉もいないのだ。煉獄さんの訃報を伝える役は他の鳥になるか、鳥以外の手段が用いられるか、或いは全然伝わらないか。

 高倉は知らなかったのだが、カラスは「太陽の鳥」とされているらしい。

カラスの「夜明け前に起きて鳴き、太陽からやってくるように飛ぶ。夕方は太陽を追うように群れて飛ぶ」という姿は、彼らの神秘性を増したはずだ。古代中国、エジプトなどでカラスは太陽の鳥とされているからである。日本神話の八咫烏も、太陽の使いであることを考えればやはり太陽の鳥である。

松原始著「もしも世界からカラスが消えたら」より引用

 太陽と共に訪れ、太陽と共に去ってゆく。昼行性の鳥なのだから自然なことではあるのだが、時計を持たず、夜明けまであと何時かも分からない古代の人にとって、夜明けを告げるカラスの鳴き声は天使の喇叭のように神々しく聞こえたことだろう。

 同時に、カラスと言えばダークサイド、悪役の象徴というイメージもある。イスラム教では不吉の象徴とされていて、カインとアベルの物語で登場するカラスはカインに弟の死体を埋める方法を教えるなどしたらしい。本によれば、カラスは動物の死体を食べる特性を持ち、そして貯蓄の習性があることから生まれた観念だろう、とのことだ。

 他にも、もしも世界からカラスが消えたらポケットモンスターの「ヤミカラス」は存在しないし「ドンカラス」になることも無いとか、かの有名な絵本「カラスのパン屋さん」はオウムのパン屋さんになるかなとか、「美少女戦士セーラームーン」の火野レイの肩にはカラスでなく鶏が乗ることになるのではないかとか、恐ろしい想像と仮説が、専門知識と共に軽快に展開される。
 カラスの影響力の大きさを、改めて思い知った。カラス、街中でガアガアしているだけだと思っていたけれど全然、全然そんなことなかったな。高倉が銀魂のOP曲で一番好きなのはFLiPの「カートニアゴ」なのだけれど、もしも世界からカラスが消えたら、この「カー」も無くなるということだ。もしもカラスの席を鶏が埋めるなら、「コッコニアゴ」とかになるのだろうか。鳩だったら「ポッポニアゴ」だろうか。えぇ……やだぁ…………。

 頼むよカラス、どうかいなくならないでくれ。高倉は、カラスが居ない世界なんて耐えられそうにない。

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