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【エッセイ】サワークリームオニオン味が好き

 ポテトチップスはサワークリームオニオン味が好きだ。

 と言うと若干語弊があって、高倉は何味のポテチだって好きだし、スーパーのポテチ棚からひとつを選ぶときは値段と手の届きやすさ(高倉は右利きなので、右側にあるとそっちを取る)で選ぶ。一番安く手に入りがちなのはうすしおなので、高倉が作業の片手間につまむポテチはうすしお味が多い。それでも、サワークリームオニオン味が好き。
 幼い頃の高倉にとって、サワークリームオニオン味のポテトチップスは特別だった。富山の田舎の個人経営のスーパーにそんな洒落た味のポテチは並ばない。高倉がサワークリームオニオン味のポテトチップスにありつけるのは、母方の実家に帰省したときだけだった。
 サワークリームオニオン味のポテトチップスは、叔母の好物だった。高倉は叔母のことが大好きで、帰省のたび叔母の部屋に入り浸ってアニメや漫画や小説の話を延々としたものだ。おやつの時間になると、叔母がサワークリームオニオン味のポテトチップスをパーティー開けしてくれて、アニメを見ながら一緒にポテチを食べる時間が大好きだった。高倉は落ち着きのない子供だったので、ポテチ片手に叔母の部屋を跳ねまわり、叔母は高倉の話にうんうんと熱心に聞いてくれた。あとでカーペットにころころをかけていた。
 母方の実家の近所には大きなスーパーがあって、叔母は自転車を押し押し、高倉と高倉妹をスーパーに連れて行ってくれた。食品の買い物はそこそこに、お菓子コーナーで高倉と高倉妹に食玩つきの駄菓子をひとつづつ買ってくれる。ポケモンのフィギュアだったり、きらきらの宝石が付いたペンダントだったり、魔法少女の変身道具だったり、高倉たちがテンション爆上げで選んだ食玩の、そのついでみたいに、買い物かごにサワークリームオニオン味のポテチが入っている。
 当時の高倉は「サワークリームオニオン」が何か知らなかった。「うすしお」や「コンソメ」よりもなんかカッコイイ、という認識しかない。それでも、サワークリームオニオン味のポテトチップスは特別だ。だってこれは、叔母の部屋でしか食べられない。サワークリームオニオン味には叔母との思い出が宿っている。叔母はもしかしたら、高倉はサワークリームオニオン味のポテチが大好きなのだと思っていたかもしれない。それは半分あっているが、半分間違っている。

 大人になった高倉は、サワークリームオニオンが何たるかを知っているし、サワークリームオニオン味とうすしお味を間違えることも(多分)無い。サワークリームオニオンの酸味が効いたポテチも、うすしおの素朴な味がするポテチも相応に好きだ。そこに優劣はない。守銭奴高倉は安い方に手を伸ばす。
 それでも、「好きなポテトチップスの味は何ですか」と聞かれれば「サワークリームオニオン味です」と答える。好きなものは、買う頻度や、値段や、味だけで決まるものじゃない。パーティー開けに失敗して叔母の机にばら撒いたポテチが何味だったとか、そういうことでもきっと決まる。

 そう、高倉はサワークリームオニオン味のポテトチップスが好きだ。なのに、明日から開催されるスプラトゥーンのポテトチップスフェスにはサワークリームオニオン派が無くて、つくべき陣営を決めあぐねている。

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