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モンテッソーリ教師養成講師が語る映画「モンテッソーリ 子どもの家」

子ども同士のかかわりが生活の中にたくさんあるからこそ成長し自立して、自律して人間関係を構築する力をつけていく
教師の姿勢、手伝うところと見守るところが絶妙

先日、映画「モンテッソーリ 子どもの家」が日本公開されました。
自分のスキーマ・偏見に気付く。子どもをありのままに見る。心をこめて見る。そんな子育て、教育手法が分かる映画です。
この仏映画よりも10年前に制作された日本のモンテッソーリ教育のパイオニアである赤羽惠子さんによる実践記映画「いちばん良いものを子どもたちに 深草こどもの家の一年」があります。その舞台となった深草子どもの家の園の先生方に、映画の感想をお話を伺いました。

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根岸美奈子(ねぎしみなこ)
深草こどもの家園長/京都モンテッソーリ教師養成コース主任

公立幼稚園の元教諭。日本で最初の養成コース(上智モンテッソーリ教員養成コース)の二期生として、JAM資格取得。子育てののち、深草こどもの家で30数年保育に携わる。京都モンテッソーリ教師養成コースでは赤羽惠子の後を継いで言語教育、コスミック教育を担当。
※JAM(Japan Association Montessori 日本モンテッソーリ協会)
長谷川 美枝子(はせがわ みえこ)
深草こどもの家主任/日本モンテッソーリ協会常任理事

私立幼稚園で教諭をしていた時に縦割り保育の実践方法に悩み、京都モンテッソーリ教師養成コースに入学。JAM資格取得後に渡独。ケルン・カトリック大学にて社会教育学専攻。ドイツモンテッソーリ教師資格(こどもの家〜小学校)取得(DMV)。ドイツ・モンテッソーリこどもの家副担任、ドイツ・モンテッソーリ協会DMV主催全国大会ワークショップ講師を経て帰国。2010年より深草こどもの家教師、京都モンテッソーリ教師養成コース講師。
映画「いちばん良いものを子どもたちに 深草こどもの家の一年」
日本におけるモンテッソーリ教育の第一人者、赤羽恵子氏は、1963年、日本人で初めてドイツでモンテッソーリ・ディプロマ(資格免許)を取得し、日本で最初のモンテッソーリこどもの家と、モンテッソーリ教師養成コース開設に大きく貢献したモンテッソーリ教育のパイオニア。彼女が理想の幼児教育を実現すべく1979年に豊かな自然が残る京都・伏見の地に設立したのが「深草こどもの家」です。本映画は、モンテッソーリこどもの家100周年記念祭(2007年ローマ)に合わせて、赤羽惠子が企画し三年かけて撮影した実践記録映画。
映画紹介サイト
https://jp-brand.wixsite.com/fukakusa-movie
深草子どもの家
https://www.facebook.com/fukakusakodomonoie/

異年齢混合クラスの中でこどもが子ども社会の中で育っていく

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木村智浩:この仏映画が日本で公開されるにあたり、オンラインで、2007年の深草子どもの家の上映会を開催したところ、毎回数百名のご参加者で、このあたりへの関心の高さを感じています。さて、仏映画はいかがでしたか?日本で公開される前にこの映画を鑑賞されていたんですよね?

長谷川美枝子(深草こどもの家主任/日本モンテッソーリ協会常任理事):この映画がヨーロッパで公開され大変話題になっているとドイツの先生方からお聞きし、その後DVDを取り寄せて観ました。こどもたちがつくられていない自然体で、ありのままの姿を映し出されていたので、見ていてとても温かい気持ちになりました。今回日本語で観ることができて本当にうれしいです。

画像2(C)DANS LE SENS DE LA VIE 2017

長谷川美枝子:異年齢混合クラスの中でこどもが子ども社会の中で育っていく様子を見せてくださっているのが一番印象に残りました。
教師が関わるときは一対一で丁寧にかかわるけれど、必要な部分だけ関わり、あとは子どもに任せている。子どもを信頼し、教師はよく観察している。子ども同士のかかわりが生活の中にたくさんあるからこそ成長し自立して、自律して人間関係を構築する力をつけていくのだと思います。

異なる個々が自分の花を咲かせる環境を整えることがモンテッソーリ教育

木村智浩:子ども同士の関わりの中で成長していく姿が伝わってきました。教師が出てくるシーンはほんどなく、異年齢の子ども同士の自然な会話を聞けるのはとても貴重でした。

画像3(C)DANS LE SENS DE LA VIE 2017

長谷川美枝子:モンテッソーリ教育が塾のように扱われるのは違うということがお分かりいただけるのではないかと思います。特に日本は「こうすればこうなる」「能力を引き出す」「天才に育つ」といった文言が並び、知育に引っ張られていく傾向にあると感じます。それぞれに異なる個々が自分の花を咲かせる環境を整えることがモンテッソーリ教育なのだと思います。

ドイツ、フランス、日本の違いは?

木村智浩:子どもが他の子どもを助ける、助けないのところや、賞罰を与えないなど、知育ではない、平和教育だとが分かる映画でした。他にも関心持たれたところはありますか?他の海外や日本との違いなど。

長谷川美枝子:私が見てきたドイツのモンテッソーリ子どもの家は自然がたくさんありました。庭は土でいろいろな動植物がいます。映画では自然の中の活動が少なかったので、こちらも観てみたかったです。

木村智浩:深草子どもの家が舞台の映画「一番良いものを子どもたちに」は、自然の中での活動がとても印象的でした。
豊かな自然の中に子どもの家があることを立地場所選びのときから大切にされているそうですね。「人間は自然の一部」だと感じさせるという考えは今の時代こそ重要に思います。

画像4(C)DANS LE SENS DE LA VIE 2017

子どもは助けてほしくないのに、大人は助けがち

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木村智浩:根岸美奈子さん、映画をご覧になられていたがでしたか?

根岸美奈子(深草こどもの家園長/京都モンテッソーリ教師養成コース主任):子どもたちの日常生活が本当に自然に描かれていることに感動しました。
まさしくモンテッソーリ子どもの家そのものの姿だと思います。大人が指示しない。まわりの子どもたちの様子(動き)をよく見てそれぞれがやりたいことを見つけて、やりたい時にはじめ、そして作業を終えていること。困っている子への対応。助けてほしくない時に手伝う子への拒否など、それぞれが心を動かして生活している様子が手に取るようにわかりました。

また、教師の姿勢、手伝うところと見守るところが絶妙でした。細かいところで、水切りのはさみの大きさや、火の点滅のあやうさ、ナイフの使い方など危なっかしい場面が多少ありましたが、子どもたちの自然の姿により打ち消されました。

介入したいという欲求は常に抑制しなければなりません

木村智浩:おぉ、子どもの細かな動きに見られているのですね。
カナダでモンテッソーリ教師をされていて、今は、カナダの大学で保育者の教員養成に取り組まれている島村華子さん(モンテッソーリ・レッジョエミリアの児童発達学博士)に、前回インタビューしたのですが、同じように子どもの表情や関わりを感想に挙げられました。
僕自身、子どもが自分でやりたいという気持ちを持っているところ、それを教師、子どもたちともに大切にしている姿は、とても心に残っています。映画のパンフレットのクリスティアン先生へのインタビューでもその点が触れられていましたね。

”クリスティアン・マレシャル先生:夜に撮影した映像を見せてくれることがあり、例えば質問に答えすぎていった教育上の小さなミスに気づかされたりもしました。介入したいという欲求は常に抑制しなければなりません。子どもの成長にはたっぷりと時間が必要です。学校で「早くして!」と決して言ってはいけないのです。ひとりひとりのリズムを尊重し、寄り添い、間違えてもこちらから教えません。失敗は成功のもとですから。”

出典:映画「モンテッソーリ 子どもの家」パンフレット、「教師クリスティアン・マレシャル先生 インタビュー」

映画のパンフレットからわかるモンテッソーリ教育

長谷川美枝子:今日、小学生クラスの後に先生たちみんなで観に行きました。映画も最高ですが、パンフレットとても良いです!
クリスティアン・マレシャル先生インタビューとムロ監督のインタビュー、大変興味深く読みました。これだけの方々が制作したからこその映画と納得しました。深津高子さんのモンテッソーリ教育の解説もとても良いです!おすすめです。

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欠かせない子どもへの信頼

木村智浩:映画のパンフレットを読みました。監督のインタビューから、モンテッソーリの考えが分かるだけでなく、そのメッセージは、モンテッソーリの教師だけでなく、私たち保護者にとっても日常に活かせるものだと思いました。

アレクサンドル・ムロ監督:
”教育とは知識を伝達することではなく、子どもの精神の発達を手助けすることだと彼女(マリア・モンテッソーリ)は考えています。”

”強制することも、世界中の教育現場や社会全般で蔓延している圧力による服従もなく、結果を求めたりしません。なぜならモンテッソーリの教育者は、子ども自身、そして子どもの可能性、自身のメソッドを深く信頼しているからです。”

”教育者は、細やかな配慮、忍耐、信頼、無条件の愛を子どもに与えられるように努力します。これらは大人にとって最も難しいことでもあります。さらに一歩引いて作業を見守り、自律を促すことも必要です。これは簡単なことではなく、子どもへの信頼が欠かせません。”

出典:映画「モンテッソーリ 子どもの家」パンフレット、「監督・撮影・録音 アレクサンドル・ムロ インタビュー」

私たち保護者が持ち帰れるメッセージです。まさに知育などではない世界です。
子どもをどのような存在としてみるのか?そして、どのような関係を子どもと築くのか、これは日々の親子関係に活かせるものだと思います。

大人にも応用できる。内発的動機付けの観点でこの映画を観る

また、これらのエッセンスは家庭だけでなく、職場にも応用できるものだと思いました。変化が多く不確実性が高い時代では、一人ひとりのリーダーシップが重要となります。モチベーション、動機理論の観点で、この映画を観るのも新たな発見があります。そんなお話をカナダの大学のモンテッソーリ・レッジョエミリア研究者の島村華子さんにしていただきました。ぜひこちらもお読みください。


▼映画「モンテッソーリ 子どもの家」をモンテ・レッジョの博士が語る
https://www.gaiax.co.jp/blog/montessori-education-movie/

■映画「モンテッソーリ 子どもの家」2021年2月19日、全国公開
https://montessori-movie.jp

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■お知らせ

研究結果を紹介し、とても分かりやすく書かれた書籍『モンテッソーリ教育・レッジョ・エミリア教育を知り尽くしたオックスフォード児童発達学博士が語る 自分でできる子に育つほめ方叱り方』があります。
2021年3月にはこの著者島村華子さんらをゲストに招き、日本のモンテッソーリ教育のパイオニアの赤羽先生に企画・制作された映画「子どもに一番良いものを」の上映会&トークセッションが開催されます。

2021/03/26 (金) 21:00 - 23:00
モンテッソーリ教育のパイオニアのドキュメンタリー映画
オンライン上映&トークセッション(見逃し録画あり)
特別ゲスト:モンテ・レッジョ児童発達学博士 島村華子
https://www.facebook.com/events/3968198813191253
https://peatix.com/event/1817363/view

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■プロフィール

木村智浩 きむらともひろ
株式会社ガイアックス  チーフカルチャーオフィサー
https://www.gaiax.co.jp/
奈良県生まれ。早稲田大学卒業後、ガイアックスにて、営業、新卒採用、広報IR、経営企画、事業立ち上げ(国内トップシェア獲得)等、幅広く経験。
ガイアックスはソーシャルメディアとシェアリングエコノミー分野に注力する起業家輩出のスタートアップスタジオ。
4児のパパで、モンテッソーリ教育を学び、子どもたちはモンテッソーリスクール、また、体験型学習中心の自由学校(学校教育法一条校、きのくに子どもの村小中学校)に通う。国家資格キャリアコンサルタント。
2020年より、元ソニー上席常務の天外伺朗の「フロー経営」を伝える天外塾で、「ティール時代の教育と子育て」( http://www.officejk.jp/ )が開講。2021年は秋に開講。
現在は家族で奈良県に移住(Uターン)し、テレワーク、そして、自然農を学び実践中。Noteを書いてます。ぜひフォローください。

https://www.facebook.com/tomohiro.kimura

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多数のイベントを開催しています。オルタナティブ教育のFacebookグループもあります。
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