高橋裕介@編集者

編集者。株式会社ストレートエッジ取締役。新潮文庫nex元編集長。担当作:河野裕『いなく…

高橋裕介@編集者

編集者。株式会社ストレートエッジ取締役。新潮文庫nex元編集長。担当作:河野裕『いなくなれ、群青』/知念実希人『天久鷹央の推理カルテ』/竹宮ゆゆこ『砕け散るところを見せてあげる』/暁佳奈『春夏秋冬代行者 夏の舞』/宮部みゆき『ほのぼのお徒歩日記』/伊坂幸太郎『ジャイロスコープ』

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  • 本をつくること、考えること。

    本の話です。編集者が本をつくるときに考えること、悩むこと、嬉しいことなどを、書き留めていきます。

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新潮社を退職して、一人の「編集者」になりました。

昨日2021年3月31日をもって、新潮社を退職しました。 今日からは新しい会社に籍を置きますが、出版社という看板のない、ただの「編集者」です。 淋しくもあり、怖くもあり、どきどきした1日目を送っています。 新潮社は、新卒で入社してから13年間、僕に編集者としての全てを教え、育て、支えてくれた会社で、こと文芸に関しては日本一の出版社で、大好きな職場で、そこには感謝の気持ちしかありません。 週刊新潮での4年間は記者として、新潮文庫編集部での9年間は編集者として、たくさんの思

    • 処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな

      7回。 僕が校了までに、葵遼太『処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな』を読んだ回数です。 入稿までに4回。初校、再校、念校。ぜんぶで7回。 そして7回ぜんぶで、僕は原稿を読みながら、泣きました。 原稿の完成度は高く、1回目と7回目で物語自体が大きく変わったわけでは、ありません。それでも、僕はこの小説が大好きで、読むたびににやにやし、優しい気持ちになって、最後には涙が出ました。 何度読んでも、心に刺さる。 こういう原稿に出会えたとき、僕は編集者

      • タイトルをめぐる冒険/『砕け散るところを見せてあげる』

        竹宮ゆゆこ『砕け散るところを見せてあげる』の映画化が発表されました。 ベルリン国際映画祭へのノミネートなど、海外映画祭で高い評価を受けるSABU監督の作品とあって、本作はまさに「衝撃作」。 竹宮さんと一緒に撮影見学と伺ったのは、ちょうどクライマックスのシーンの撮影日だったのですが、中川大志さん、石井杏奈さんの切実で緊迫した演技、そして監督が放つオーラに圧倒されました。 竹宮さんが監督を見て「あれは、侍だ……」と話されていたのが、とても印象的です。 この「侍」発言が端的に

        • タイトルをめぐる冒険/『いなくなれ、群青』

          僕の担当作の中で、タイトル決定までの道のりが最も険しかった作品があります。 『いなくなれ、群青』です。 河野さんと何度かのやり取りを経て、最終的には神戸に伺って、二人で打ち合わせをして、それも8時間を打ち合わせを経て、よし、これで、と決まったのが、この題名でした。 タイトルの決まり方は千差万別です。 原稿が届いて、そこに記されていたタイトルがそのまま決まる場合もあれば、作家から相談を受けて、打ち合わせをして、その先に決まる場合もあります。原稿の執筆前から、作家の頭の中でタイ

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        • 本をつくること、考えること。
          6本

        記事

          ひとつの出会いが、本を変える瞬間。

          「紙の本はずっと残りますよね」 文庫の仕事をしていると、こんな言葉に遭遇することがあります。こうした時の「ずっと」は、だいたいの場合、良い意味で、出版文化と歴史への肯定的なニュアンスが含まれていて、言われた側としても(それが僕の仕事であるかどうかにかかわらず)なんだか嬉しい気持ちになります。 しかし。 この「ずっと」は、なかなかに曲者です。 noteのようなデジタルのテキストと違い、アナログ媒体である紙の本は、ひとたび出版すると、簡単に訂正や変更ができません。 だから、僕ら

          ひとつの出会いが、本を変える瞬間。

          ブックデザインの魔法

          本の装幀を考えるとき、僕はいつも悩みます。 イラストにするか。写真にするか。はたまた、文字だけで勝負するか。デザインを誰にお願いするか。 どうしよう。どうしよう。どうしよう。 と、なります。 装幀を考える、ということは、前提として「作家が書き上げた作品」が目の前にある、ということです。何か月、あるいは、何年もの時間をかけた作品を、僕ら編集者は預かります。それは重いものです。大切なものです。だから、どのアプローチが「本」としての魅力をいちばん伝えられるのかを、ひたすら考えます。

          ブックデザインの魔法

          担当した本のこと/『いなくなれ、群青』の始まり

          noteはじめました。 何か特別なきっかけがあったわけではないのですが、会社に入って12年目、文芸の編集をして8年目、小説について考えたり、感じたりすることを書きとめておく場所がほしいな、と思ったのが一番の理由です。それから、自分の担当した本のことを書いておきたい、とも思いました。その時、その瞬間に感じたこと、迷ったこと、悩んだことを、忘れたくないな、と。 本作りでは、いろいろなことを考えます。 原稿のこと、装幀のこと、売り方のこと。「こうしたい」もあれば「これでいいんだ

          担当した本のこと/『いなくなれ、群青』の始まり