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本をつくること、考えること。

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本の話です。編集者が本をつくるときに考えること、悩むこと、嬉しいことなどを、書き留めていきます。
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担当した本のこと/『いなくなれ、群青』の始まり

担当した本のこと/『いなくなれ、群青』の始まり

noteはじめました。

何か特別なきっかけがあったわけではないのですが、会社に入って12年目、文芸の編集をして8年目、小説について考えたり、感じたりすることを書きとめておく場所がほしいな、と思ったのが一番の理由です。それから、自分の担当した本のことを書いておきたい、とも思いました。その時、その瞬間に感じたこと、迷ったこと、悩んだことを、忘れたくないな、と。

本作りでは、いろいろなことを考えます

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ブックデザインの魔法

ブックデザインの魔法

本の装幀を考えるとき、僕はいつも悩みます。
イラストにするか。写真にするか。はたまた、文字だけで勝負するか。デザインを誰にお願いするか。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
と、なります。
装幀を考える、ということは、前提として「作家が書き上げた作品」が目の前にある、ということです。何か月、あるいは、何年もの時間をかけた作品を、僕ら編集者は預かります。それは重いものです。大切なものです。だから、

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ひとつの出会いが、本を変える瞬間。

ひとつの出会いが、本を変える瞬間。

「紙の本はずっと残りますよね」
文庫の仕事をしていると、こんな言葉に遭遇することがあります。こうした時の「ずっと」は、だいたいの場合、良い意味で、出版文化と歴史への肯定的なニュアンスが含まれていて、言われた側としても(それが僕の仕事であるかどうかにかかわらず)なんだか嬉しい気持ちになります。

しかし。
この「ずっと」は、なかなかに曲者です。
noteのようなデジタルのテキストと違い、アナログ媒体

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タイトルをめぐる冒険/『いなくなれ、群青』

タイトルをめぐる冒険/『いなくなれ、群青』

僕の担当作の中で、タイトル決定までの道のりが最も険しかった作品があります。
『いなくなれ、群青』です。
河野さんと何度かのやり取りを経て、最終的には神戸に伺って、二人で打ち合わせをして、それも8時間を打ち合わせを経て、よし、これで、と決まったのが、この題名でした。

タイトルの決まり方は千差万別です。
原稿が届いて、そこに記されていたタイトルがそのまま決まる場合もあれば、作家から相談を受けて、打ち

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タイトルをめぐる冒険/『砕け散るところを見せてあげる』

タイトルをめぐる冒険/『砕け散るところを見せてあげる』

竹宮ゆゆこ『砕け散るところを見せてあげる』の映画化が発表されました。

ベルリン国際映画祭へのノミネートなど、海外映画祭で高い評価を受けるSABU監督の作品とあって、本作はまさに「衝撃作」。
竹宮さんと一緒に撮影見学と伺ったのは、ちょうどクライマックスのシーンの撮影日だったのですが、中川大志さん、石井杏奈さんの切実で緊迫した演技、そして監督が放つオーラに圧倒されました。

竹宮さんが監督を見て「あ

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処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな

処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな

7回。
僕が校了までに、葵遼太『処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな』を読んだ回数です。
入稿までに4回。初校、再校、念校。ぜんぶで7回。

そして7回ぜんぶで、僕は原稿を読みながら、泣きました。

原稿の完成度は高く、1回目と7回目で物語自体が大きく変わったわけでは、ありません。それでも、僕はこの小説が大好きで、読むたびににやにやし、優しい気持ちになって、最後には涙が

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