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適当な説明の理由を適当に説明する

言語化「できる」と「できない」と「しない」

ペリメニさんがnoteに感想を書いてくださった。

「なぜ言語化できるはずなのに、しなかったのか?」という視点でなにか書いてくれた人はこれまでいなかったので、アンサー記事を書こうと思う。

種明かしをすると、ここでの説明は「力の流れ」が分かる人に向けたものになっている。みなみかわさんとのコラボ動画も、塩田将大先生とのコラボ動画もそう。

だから力の流れが分かる人にはピンとくるし、そうでない人には「分からない」となる。つまり分かる、分からないの違いが出るのは至って簡単な話で、前提となる共通言語を持っているかどうか、という違いなのだ。

分からない人は、その共通言語がない。分かる人は、それがある。

今回は特に東吾先生も参加することが分かっていたので、師匠であるテッド・ウォン師父やヒロ渡邉師父事前に動画をあらかた見て、東吾先生人気で値段が高騰していた書籍「ストレート・リード」も読んだ。

良い本だったのでBABに「再販してよ」と頼んだら、すでに新装版が予定されているとのこと。今Amazonを見てみたら、予約受付開始していた。

私もちょっとだけジークンドーをかじったことがあるのだけど、それはダン・イノサント師父系の「コンセプト派」であり、東吾先生のは「オリジナル派」と呼ばれる系統であることを知ったのもこの本のお陰だ。

ちなみに「ストレート・リード」はブルース・リー師父が最終的に行き着いた境地に、リー本人が残した記録やメモ書きなどをもとに迫っていく推理小説的な要素もあってとてもおもしろい。武術的にも学ぶことが多いし、とてもオススメです。

閑話休題。

そういう予習を経て、おそらく東吾先生は力の流れが分かる人だろうと踏んだ。先生に分かれば、他の出演者にも何らかの形で伝わるだろう。それであえて、「力の流れが分かる人には分かる」説明で押し通した。ワンインチパンチについて「足元から拳に力を伝える」と説明しているのがそれ。動画を見ても、その言葉のとおりきれいに力が流れている。私と東吾先生でだけわかり合ってる場面があるのもそのためだ。

親切な嘘がめっちゃ楽しいシステマを覆い隠す

システマのクラスをやっていて、とても難しいのが「力の流れ」について理解してもらうことだ。ここに大きな壁がある。これを超えさえすれば、私が感じている「めっちゃ楽しいシステマ」がある。

だからそれをどう超えさせるかが大きなテーマになる。

以前の私は、その壁の超え方を一生懸命教えていた。

そうやって「わかりやすい」説明をして、納得感を与えるとどうなるのか。

最悪は「ふんふん、分かった。そういうことね」と生悟りしてしまって、先に進まなくなってしまうことだ。これは「分からない」と悩んでいるより、100倍始末に負えない。なぜなら「分からない」には分かろうとするモチベーションがあるけど、「分かった」はその言葉からして過去形。分かろうとするモチベーションを過去の世界に置いてきてしまっているからだ。

どれだけ納得感を感じて、満足してもらっても、壁を超えていない、あるいは壁の存在すら提示できていないのなら、明らかな失敗だ。

私の見る限りでは、その壁の手前で「こういう時はこうする」というハウツーを教えることが、いわゆる「わかりやすい説明」のようだ。ヴラディミアはそこのところがとても上手で、壁の手前にいる人を満足させる説明と、壁を超えた人に伝わる説明を使い分ける。前者は顧客満足度向上のためのサービス、後者はより先に進みたい人に向けた指針だ。

ただ、どれだけ「わかりやすい」と言われても、それで壁を超えられないなら、それは嘘を伝えたことになる。つまり親切のつもりで分かりやすく説明したばかりに、めっちゃ楽しいシステマが隠されてしまう。

その一方で「とてもすごい」とされている人でも、単に説明が下手か詩的すぎて、言っていることが要領を得ていないだけのことも多い。無自覚に煙に巻いているだけ。これは論外だ。

モヤモヤに耐えられるか

ではどうしたらいいのか。試行錯誤して最近わかって来たのが、「壁の向こうの世界を提示するほうが早い」ということだ。だから説明は適当にしてわからない人はわからない人で置いてきぼりにしたまま、さっさと実演する。ワークに移る。あえてその場に「?」を撒き散らす。

そのモヤモヤ感があれば、「自分が感知できていない何かがある」という感覚につながる。もちろんこのモヤモヤ感に耐えられず、「分かった」という生悟りに逃げる人も少なくない。

あるいは生悟りを警戒しすぎて、「難しい」「分からない」という思い込みにはまり込み、分かろうとすらしなくなってしまうこともある。

それでも「?」を撒き散らしてモヤモヤしてもらったほうが、「わかりやすい説明」をするよりも、分かろうとするモチベーションが高まり、結果として壁を超える人が増える。だからおそらく、今のシステマ東京のほうが、昔のシステマ東京に比べてわかりにくくなっているだろう。でも、個人的な実感としては壁を超えられる確率は増えている。顧客満足度の平均値は下がっているかも知れないけど、インストラクターとしての私的満足度は向上している。

だから「分かりにくい」とか「説明が下手」とか言われても、なんとも思わない。「ああ。あなたには共通言語がないんですね」と思うだけ。さらに噛み砕いた説明をすることもない。まあ一緒に遊べない寂しさはあるけど、誰もがみんな同じ遊びが好きなわけじゃないからね。

でも今回は冒頭にも書いたようにペリメニさんが「なぜ言語化できるはずなのに、しなかったのか?」という視点で疑問を提示してくれた。こういうことはめったにないので、アンサーを書く気になった。

カバー写真はそんなことを考えながらつくった娘の朝食。

最近はホットサンドがお気に入りです。

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