ナラティブな組織から生まれる変革力
先日弊社ROUTE06(ルートシックス)で育休支援制度に関するプレスリリースを出した。改正育児・介護休業法の成立などにより、社会的な注目が集まっていることもあってか、本制度に関してご説明する機会を少なからずいただいている。制度設計の背景だけに留まらず、組織づくり全体へと話題は広がることが多く、新しいスタートアップ組織自体への関心が高まっていると感じている。
ROUTE06は創業2年目の会社であるが、組織づくりについて自分なりに大事にしている想いがある。仕事への向き合い方、制度設計や採用などにもそれが少なからず反映してきたのだが、あまり言語化したことがなかったので、今回はROUTE06が目指す組織についてまとめてみようと思う。
DXに求められる「変革」への熱量
ROUTE06は「リアルとデジタルが滑らかにつながる社会をつくる」をミッションに掲げ、大手企業の新規事業支援と事業変革に特化したデジタルソリューションを提供している会社だ。小売・流通・製造業におけるプラットフォーム型のプロダクトづくりを得意としているが、それだけに留まらない。
大手企業の事業パートナーとして、誰も経験したことがないような新しい事業創造・変革に取り組んでおり、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の一丁目一番地と言えるプロジェクトを複数ご支援させていただいている。それらのプロジェクトのコアメンバーとして、事業プラン/UX設計/UIデザイン/プロダクト開発/グロース支援まで深くコミットしており、どれも数年がかりでかたちにしていくような案件ばかりだ。
不確実性が高い一方で、タイムラインも長く、大手企業品質の安定性と継続性が求められる。システムの納品はゴールではなく、スタートラインでしかない。そのスタートラインに立つまで1年2年がかりになるのだが、プロダクトリリース後のサービス改善だけではなく、多くの関係者を巻き込んで動かしていく仕事もリリース後にこそ本格化していく。
DXでは文字通り、顧客の事業と組織に「変革」をもたらす力が必要であり、支援する側としてもそういったエネルギーのある組織であることが求められる。既存の仕組みやシステムを否定し、反対する人たちを押さえつければ、解決するような単純な問題ではない。トップダウンのリーダーシップが必要とよく言われているが、逆に技術と業務に負債を残す結果にもなり得る。データ経営、ジョブ型雇用、アジャイル開発、スクラム型チームなどの仕組みをどれだけ導入したとしても、現状が大きく変わるわけでもない。
いま現場で経験しているのは、物語のストーリーのように、様々なイベントで一喜一憂しながら、少しずつ社内外での仲間が増え、大きな「変革」の流れが生み出されていく状況だ。それはどのプロジェクトでも共通している。特定のテクノロジーや手法ドリブンで起こっているとはとても思えないし、リーダーが変わったから進み始めたとも言い切れない。事象の繋がりはもっと複雑で、ドラマ的だ。
そう感じているからこそ「変革」の起点となるのは、従来型の経営管理手法によって生み出される組織力ではなく、社内外の関係者に優しく滑らかに熱量を伝搬させられるような組織であると思う。
「ナラティブ」な個の重なりがモメンタムを紡ぐ
その前提を踏まえ、ROUTE06がどんな組織を目指しているのかを一言で表すと「ナラティブ」な組織である。「ナラティブ」とはマーケティングの世界ではよく目にする言葉であり、直訳すると「物語」などであるが、もう少し多面的な概念だ。
「ナラティブ」とは、特定の誰かの視点に限定されず、登場する一人一人が主体となり、それぞれの人生/経験/想いなどが、物語のように自然と紡がれていく状態だ。
想定外の新しい出来事が発生するが、物語を前に進める重要なイベントであったことに後になって気づいたり、どうなってしまうのか予想がつかないような状況から大逆転が起きたりする。それがそれぞれの視点から共有され、新しいインプットとなり、次のセクションへと進んでいく。終わりがあるようでなく、バラバラのようで繋がっているもの。
ROUTE06でこれまでやってきたこと/これからやろうとしていることを突き詰めて考えるほど「ナラティブ」に帰結する。
・経験や強みを活かせる組織
・やりたいことを実現できる組織
・成長を実感できる組織
・個性的で多様性のある組織
など、どれも正しいのだけれど、どれも不十分な印象だ。ミッション/パーパスは明確に存在し、それに向かって進んでいるのだが、道中は良い意味で予想がつかない。
事業計画や戦略などはもちろんあるのだが、実は目標KPIなどをあまり社内では共有していない。その場でその瞬間に、巡り合ったクライアント、加わってくれた仲間達と一緒に、一番インパクトを出せること/情熱を持ってできることに挑戦しているような状態でもある。
「この人が入社するのであれば、新しくこんな化学反応が考えられる。それお客さんに提案してみようか。あの人にも紹介してみると面白そう」
現場ではこんな話をよくしているのだ。
一見すると行き当たりばったりにも思えるかもしれないが、創業から2年目まで、定性的にも定量的にも、当初事業計画を超える水準に着地する見通しだ。案件獲得でも採用でも、偶発的な出会いによって新しい機会が生まれ、結果は必然的に決まっている物語のように会社が作られていく感覚でもある。
事業計画やKPIを重視しないというわけではなく、むしろ細かく設計もしている。自分の性格的にも数字へのこだわりは強い。経営陣を中心にデータ分析や基盤構築に強みを持つメンバーも多く、顧客の事業KPIのファネル分解/管理や意思決定/施策実行の支援には相当力を入れている。ただROUTE06ではそれよりも「ナラティブ」な繋がりを重視している、それだけである。
ROUTE06は「なぜ創業1年目から日本を代表する大手企業と面白そうな仕事ができているのですか?」とよく尋ねられるだが、「ナラティブ」な会社づくりをしてきた結果として、従来の取引先とは別軸でご評価いただいたり、独特の推進力に魅力を感じていただけていると思う。「ナラティブ」な組織は、顧客にとって「安心して冒険を共にできるパートナー」とも言えるのかもしれない。
採用は「キャラバランス」重視
ROUTE06の「ナラティブ」な組織づくりに関して、大事にしているポイントが2つある。そのうちの1つがチーム「キャラバランス」だ。
この話は社内外でよくしているのだが、個人的には採用においては職歴やスキル要件以上に重視しており、カルチャーフィットとも少し異なる。
カルチャーフィットというと組織の思想に合うかどうか/合わせられるかどうかという観点での思考になるが、「キャラバランス」はまさしくナラティブな発想だ。
「Aさんは、BさんやCさんと一緒に働いてみると面白いかも。ここはちょっと揉めてしまうかもしれないけど、それはきっとCさんがフォローしてくれるだろうな。うん、相性良さそう。はじめは紆余曲折あるだろうけど、1年後にはこうなってそう。すごく面白そうだ」
自分が採用面談をさせていただく際には、実はこんなことをずっと妄想をしている。小説や漫画のストーリーのように、新しいキャラクターの方々が登場することで、ストーリーの展開がどんどん進んでいく。一人一人そんな可能性を感じながら入社してもらっているのだ。
能力面でも人格面でも素晴らしいと感じる方であっても、今のROUTE06ではその方にスポットライトを当てられないかもしれないと思う場合、ご希望にそった条件をご提示できないこともある。
ワンピースに例えるなら、ルフィとゾロの次に仲間になるのがサンジだったら物語はあれほどテンポよく進んでいただろうか、という問いになる。きっとそう上手くいかなかっただろう。ナミやウソップがいたからこそ、サンジの良さも活きるし、他の仲間もより活きてくる。多少サンジとゾロが揉めていてもチームとしては問題ないのである。むしろバランスが良い。
もしかしたらROUTE06の他のメンバーは少し違うことを言うかもしれないけど、自分はそんな感覚で組織づくりを考えており、個性の多次元パズルのような、物語を紡ぐような、ワクワク感を日々感じているところだ。
結果として、誰一人として欠けたら困るような素晴らしいチームができており、ROUTE06の経営で最も手応えを感じている点の一つである。
ちなみにお互いの理解のために全社員に「クリフトンストレングス34」(旧:ストレングス・ファインダー)を受けてもらっているのだが、現在のROUTE06の組織全体で最も色濃く出ている強みは「個別化」である。お互いの個性や違いに目を向け、それらを尊重しようとするチームの姿勢が、わかりやすく表れているのではないだろうか。
「人生を妥協しない」ための制度
「ナラティブ」な組織づくりで大事にしているポイントの2つ目は、社員をはじめとした関係者が「人生を妥協しない」ための環境づくりだ。冒頭でご紹介した育児支援制度にも繋がる話である。
チームのみんながそれぞれの物語の本流から離れたところで、もしくはちょっとした工夫や補填があれば悩まなくても済むようなところで、ストレスを感じたり、躊躇ったりする部分をできるだけ減らしたいと考えている。本当に力を入れたいこと、楽しみたいこと、やりたいことに熱中して欲しいと願っている。そうやって人生を楽しんでいる人たちが集まると、仕事でも独特のモメンタムが生まれ、優しい確かな影響力をもつチームが作られていく。
子育ては特に大きなライフイベントのため、早めに前述の仕組みを整える結果になったが、入社直後に有給20日付与、給与は入社当月払いなど、他にもさまざまな制度が存在する。入社してから迷いなくコトに集中してもらえるように、オンボーディングの説明やドキュメント整備にも力を入れてきた。転職自体もその人にとってはストレスを感じる大きなライフイベントであるためだ。
働き方もフルリモートにも対応可能で、できるだけ就業開始時間などの制約に縛られないように就業規則からITインフラまで、創業前からこだわってきた。地方に住んでいるから、子供の送り迎えがあるから、家族の介護があるからなど人によって事情は異なるが、一般的な就業時間に合わせられない、特定の場所に出社できないという理由だけで、その人の可能性を制限してしまうようなことはしたくない。
社員に限らず、取締役でもプライベートの用事で離席する場合、以下のようにフランクに社内Slackでコメントすることも。
またROUTE06では全社員・業務委託・役員がそれぞれ「Twitter-」というprefixのついた個人チャネルを持っている(SNSのTwitterとは無関係)。一般的なスタートアップやIT企業では「Times-」という個人固有のチャネル持ってタスクや勤怠を報告している会社が多いのだか、業務的な報告よりもそれぞれが雑談や独り言などを自由に発言しやすいことを重視しており、前者のprefixが採用されている。それも「ナラティブ」な考え方が反映された制度/文化と言えるだろう。
個人的には報酬面で信託ストックオプションの条件などに特別こだわってきた。創業3ヶ月以内での組成は、国内のVC-backedなスタートアップのなかでは最短と言えるかもしれない。合理的で納得感のあるインセンティブを付与することで、将来社員が悩み、立ち止まってしまう点を少しでも減らしたいと思っている。
ROUTE06が目指すのは「優しい変革者」
上記の通り、ROUTE06では創業時点から「ナラティブ」な組織づくりを行ってきた。もともと「ナラティブ」を意識していたわけではないのだが、大事にしてきたこと/これまでやってきたことは、全てその言葉の指す意味と重なる。
「ナラティブ」な組織は、小さなチームでも、大きな組織を動かしうる優しい変革力をもつ。 ROUTE06では創業直後からそれを証明してきたと思うし、その影響範囲を際限なく大きくしていきたいと思っている。我々が目指す組織は、数十人、数百人ではなく、大手SIer水準の数千人・数万人規模の世界だ。
よくSaaSによってSIerの市場が置き換わるという話があるけれど、エンタープライズ・ソフトウェア開発のリアルな現場で見えている景色は少し異なる。リプレイスされる部分はもちろんあるけれど、削減された予算で新たな攻めの投資が加速されていく。どれだけSaaSが普及しようとも、システム開発の市場は拡大し続けるし、プロダクトをつくれる人材への需要は非線形に高まり続けていく。今後どれだけ大きくなるのか予測ができないほどに。
ROUTE06がより多くの従業員を抱えられるようになると、紡がれる個の可能性が最大化し、クライアントの事業もそのエンドユーザーの体験も、エンジニアやデザイナーをはじめとした従業員の労働環境も改善され、社会全体をより幸せにできると確信している。未来を考えるのが楽しみでならない。
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