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デジタルでつながる都市鉱山、限りある資源が限りなくめぐる社会へ

本日の記者会見およびプレスリリースにて、三菱マテリアルが運営開始するE-Scrap取引プラットフォーム「MEX」の発表が行われた。パートナー企業として私も記者会見に登壇し、三菱マテリアルの進めるデジタル化戦略「MMDX(三菱マテリアル デジタル・ビジネストランスフォーメーション)」及び「MEX」の可能性などについて説明する機会をいただいた。

ROUTE06の創業2年目にして、創業150年の伝統ある三菱マテリアルの経営陣の皆様との記者会見に同席することになるとは想像もしていなかった。参画当初は創業まもなく実績もないスタートアップ企業であったROUTE06を信じていただき、また対等なパートナーとして迎え入れて下さった三菱マテリアルの亀山CDOをはじめとしたDX推進本部の皆さま、酒井常務をはじめとした金属カンパニーの皆さま、その他関係者の皆さまには心から感謝申し上げたい。

【三菱マテリアルのプレスリリース】E-Scrapビジネスの新プラットフォーム「MEX」の運用開始 ~DXにより高付加価値な製品・サービスを提供するリーディングカンパニーへ~

「都市鉱山」やE-Scrapは一般的にあまり馴染みのない言葉であるが、今年開催されたオリンピックのメダルに関する記事で「都市鉱山」という言葉を目にした方も少なくないだろう。メダルの原材料となっているものは、E-Scrap(金銀滓)と呼ばれる使用済みのパソコンやスマートフォンなどの廃電子基板であり、都市が産地ともいえる資源・原材料のため、それらは「都市鉱山」とも呼ばれている。

皆さんはご存知だろうか、毎年何十万トンという単位のE-Scrapが全世界から日本国内の「製錬所」に集められ、金や銀などの有価金属を製錬するリサイクル処理が行われていることを。なかなかイメージしにくい規模と業界かもしれないが、E-Scrapの製錬リサイクル事業は、今この瞬間の私たちの生活を支える基盤となっている。

このE-Scrapの製錬リサイクル領域において、世界有数の製錬技術と処理能力を有する三菱マテリアルが新たに運用を開始するのが、E-Scrap取引プラットフォーム「MEX」だ。国内外の取引先がより安心して三菱マテリアルと取引できるE-Scrapの量を増やし、「製錬所」という稀少な資産の価値を高めることにも貢献するデジタルサービスである。

今回は王道の製造業DXともいえる「MEX」のご紹介をきっかけに、三菱マテリアルの金属リサイクルの歴史や循環型事業、三菱マテリアルのDXへの取り組みなどについて、少しでも多くの方々に知っていただきたいと思う。

三菱マテリアルの技術が生んだ「循環型事業」

三菱マテリアルの創業は150年前に遡る。三菱の創業者である岩崎弥太郎氏が三菱グループの前身となる九十九商会を明治4年に設立し、紀州新宮藩の炭鉱を租借して開始した鉱業事業が起源と言われている。現在は銅を中心とした非鉄金属領域に強みを持つ総合素材メーカーとして、売上高1.5兆円(うち海外45%)、従業員2.7万人規模という日本を代表する企業の一つである。

そのなかでも金属事業カンパニーは売上高の約6割を占める主力部門であり、更に近年では「都市鉱山」と呼ばれるE-Scrapリサイクル事業への注目度が急速に高まっている。SDGsやサーキュラーエコノミーのような環境意識の高まりが背景にあるだけでなく、スマートフォンやIoTデバイス、電気自動車の普及などにより電子基板への実需が増えているためだ。世界のE-Scrapの処理量はこの10年で約3倍に拡大している。

三菱マテリアルは年間16万トンのE-Scrapのリサイクル処理を可能としており、2020年に全世界で発生したE-Scrap量約80万トン(三菱マテリアル試算)のうち20%と世界トップクラスのシェアを誇る。単純な重さでいえば東京スカイツリー4個分超である。全世界の取引先から、それだけの量のE-Scrapが日本国内の直島製錬所(香川県直島町)や小名浜製錬所(福島県いわき市)に集められ、金・銀・銅・パラジウムなどの有価金属が製錬されているのだ。

また三菱マテリアルは「三菱連続製銅法」という独自の技術により、設備自体のコンパクト化および省エネルギー化に加え、亜硫酸ガスなどの有害気体の漏煙の防止など安全性の高い製錬を可能にしている。製錬所に持ち込まれたE-Scrap等の原材料からは有価金属のみならず硫酸や石膏なども抽出可能であり、全くの無駄のない100%リサイクルおよびゼロエミッションを実現している。

ちなみに世界有数の製錬所のある直島町はアートの島としても知られており、島のあちこちに現代アート作品が点在している。実は直島町の人口の約1/3が三菱マテリアルグループの従業員であり、長年にわたり地方の経済や雇用を支えている。4世代にもわたり勤務した従業員家族もいるらしい。

普段の生活で三菱マテリアルの社名を目にすることは少ないが、世界有数のE-Scrap処理能力と環境に優しい製錬技術を持つ世界に誇れる「ものづくり企業」であることを、世界中の人々の生活を支える「循環型事業」のリーディングカンパニーであることを、もっと多くの方々に知っていただきたいと思う。

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(写真は直島製錬所近辺にてROUTE06社員が撮影)


E-Scrap取引プラットフォーム「MEX」とは

三菱マテリアルは今後E-Scrapの受入・処理能力を2030年度までに年間約20万トンにすることを計画している。製錬プロセス自体は世界最先端であるものの、取引手続きや業務がアナログだったり、顧客接点を中心にそのプロセスにはまだまだ課題も多い。そのため取引先にとっても三菱マテリアルにとっても、より便利で効率的な取引フローを実現する必要があり、そのような背景から生まれたのが「MEX」である(名前の由来はMitsubishi Materials E-Scrap EXchange)。

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「MEX」はE-Scrapをはじめとした三菱マテリアルの全ての金属リサイクル取引の入り口となるWebサービスだ。顧客企業は製錬所へのE-Scrapの持ち込み予約をはじめ、三菱マテリアルとの取引において必要な手続きがいつでもどこでもオンラインで行えるようになる(本格運用開始は2021年12月から)。

直感的で使いやすいUIや、E-Scrapの取引ステータスやサンプル写真の表示機能などお客様にとっての利便性の向上に加え、多言語化対応や海外法規制準拠などグローバル展開を前提としている。少し難しい言い方をすると「One-Sided Marketplace」かつ 「Vertical SaaS」という性質を持つ産業材DXのど真ん中ともいえるプロダクトでもある。

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あまりデジタル化が進んでいなかった商取引をオンライン化する、というのは一見するとシンプルに思えるかも知れないが、専門性が高く独特の商習慣のある業界においてはコンシューマー向けサービス以上にUXや業務設計が重要になる。既製品のソフトウェアをどれだけ組み合わせようと、必要なサービス要件の半分にも満たなかったり、そもそもセキュリティやBCP関連等の非機能要件をクリアできるSaaSも多くはない。海外展開が大前提にあるなら尚更である。

一方でこういった領域こそDXによる事業インパクトが大きい。「MEX」のようなデジタルサービスをきっかけとして、ほんの数%でも製錬所の稼働効率が上昇するとしたら、廃棄物ではなくE-Scrapとして流通する廃基板が数%でも増えるとしたら、それは三菱マテリアルだけの話ではなく、社会的にも大きな意義を持つことは想像に難くないはずだ。

また「MEX」は三菱マテリアルが中期経営戦略にて掲げるデジタル化戦略「MMDX」の21プロジェクトのうち事業DX初の成果でもあり、三菱マテリアルにとって重要な意味を持つ案件である。どれだけの関係者の方々の想いと努力が積み重なった結果として、ここまで辿り着けたのかは簡単には語れない。

創業2年目と創業150年目の協業

この「MEX」というデジタルプロダクトに関して、弊社は構想段階からプロジェクト全体の伴走者としてご支援させていただいてきた。元々ROUTE06のメンバーもリサイクルや金属業界について専門知識や経験があったわけではないのだが、亀山CDOと何度かディスカッションさせていただくなかで、起業経験者、戦略コンサルティングファーム出身のPdM、デザイナー、ソフトウェアエンジニアなどが混在するチームに関心を持っていただいたようだ。

協業の内容は弊社プレスリリース記載の通り、デジタル事業戦略の構築・サービス及び業務設計、UI/UXデザイン、プロジェクトマネジメント及びアジャイル開発マネジメント、データドリブンでのサービス及び業務改善支援など様々であるが、実際は泥臭く「MEX」の成功のために必要なことは何でもやってきたというのが正しいかもしれない。我々だけではなく、三菱マテリアルの関係者や開発パートナーのSRAの方々も同様だ。

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Teamsでのオンライン会議に加えて、FigmaやMiroのようなコラボレーションツールなどを活用し、これだけのシステムの設計と開発をオンラインで完結させることができているのだが、単純にツールや仕組みが良かっただけの話でもない。三菱マテリアル・リサイクル部の岩堀滋彦部長のリーダーシップのもとで、顧客にとって良いプロダクトをつくることをミッションにあらゆる関係者がOne Teamとして動いていたと思う。ROUTE06のプロジェクトチームのみんなも本当によく頑張ってくれていた。

ちなみにプロダクトのUIデザインだけでなく「MEX」のロゴのデザインなども弊社のデザイナーが担当させていただいた。シンボルマークは「都市鉱山」を示す山のようなシルエットに加え、サービスとして羽ばたけるようにと翼にも見えるシンボルとして表現している。

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この「MEX」をきっかけとして、都市鉱山/E-Scrapのリサイクル事業が更に飛躍していくように、我々も引き続き最善を尽くしていきたい。当たり前であるが、プロダクトはリリースしてからが本番であり、「MEX」は今後データドリブンでのUI改善や機能追加によって常に進化するサービスとなっていく。

製造業DXの最前線、「変革」の背景

三菱マテリアルが進めるデジタル化戦略「MMDX」の一番槍となる「MEX」は、今後の製造業DXの一つのモデルケースになる事例である。デジタルプラットフォームによって世界有数の製錬所の資産価値の向上が期待され、これぞまさにDXと呼べるものであるのだが、その「変革」の背景から学べることも少なくない。

先日の記者会見でもご説明させていただいたが、パートナー企業の立場から三菱マテリアルのデジタル化戦略「MMDX」には3つの特徴があると感じており、「MEX」のような専門性の高い事業領域でも短期間でプロジェクト推進及びプロダクト開発が可能な体制になっている。

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はじめに強調しておきたいのが、三菱マテリアルチームの「顧客ファースト」な姿勢である。少しでも利便性の高いサービスをお客様に提供したい、少しでも品質を上げたい、お客様から信頼されるサービスにしたい、というものづくり文化がトップマネジメントから現場まで強く根付いている。それはリアルな製品であろうと、デジタルサービスであろうと変わらない。

「顧客ファースト」な組織であれば、目標達成のためにベストな体制や手段を選択できる。今回の「MEX」のように、新しい顧客体験及び業務設計に加え、UIデザインやアジャイルな継続改善が重要となるプロダクトでは、我々のようなスタートアップ企業と協業して作りあげる「オープンイノベーション」を選択することも自然な流れなのかもしれない。

また三菱マテリアルの事業部の方々も、DX推進チームの方々も、常に対等に敬意を持って我々に接してくれていた。経歴や立場などに関わらず、良いものは良い、悪いものは悪い、とあくまでアウトプットやプロセスをフェアに評価してくださる姿勢は本当に素晴らしかった。

多様な関係者が参画するプロジェクトにおいて、業務ツール・前提知識・インフラ等が共通化されていることも大事だが、こういった姿勢・雰囲気に勝る価値はない。これだけ専門性の高い事業領域であっても、結果として、フルリモートでも短期間でサービスリリースまで辿り着くという、プロダクト開発自体の「プロセスDX」も実現している。

どの案件でも常にこのようなアプローチが最善とは限らないのだが、大手企業でDX推進が思ったように進まず苦心している方々にとって、少なからず参考になるエッセンスがこの案件から学べるのではないだろうか。

さいごに

国内に数多く存在するリサイクル工場とそこで働く人たちによって、どれだけ我々の生活が支えられているのか、「MEX」の仕事を通して私自身も多くのことを学ばせていただいた。SDGsとは、循環型経済とは、ぼんやりとイメージしていたものが、リアルなものとして感じられつつある。

E-Scrapリサイクル事業は社会的意義が明確であり、市場としても事業としても成長ポテンシャルの高く、遅かれ早かれ注目が高まっていくのだが、その流れを少しでも加速できないかと思う。

国連大学の調査によると、電子機器本体を含む廃棄物の総量は2030年には世界全体で7400万トンに昇る一方で、2019年の収集・リサイクル率は17.4%に留まってる。つまり世界の8割以上の電子機器はゴミとして処理されているのだ。

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より多くの廃棄物がリサイクル処理のプロセスに組み込まれるためには、社会システムやインフラの整備も重要であるが、我々一人一人が少しでもリサイクルの現状について知る機会が増えることも大切なのだと思う。語られるのはメディアでもSNSでも、知るきっかけは何でも良い。環境問題だけでなく、ビジネスや投資、リアル技術やデジタル活用など、もっといろんな角度からスポットライトが当てられても良いはずだ。

DXをテーマとしているため少し難解な内容になっているかもしれないが、この記事や弊社のプレスリリースなどを通じて、少しでも多くの方々が都市鉱山やE-Scrap処理について知るきっかけとなればと思う。



【参考)三菱マテリアル 採用関連ページ】
三菱マテリアル 事業紹介 金属カンパニー
PROJECT STORY 01E-Scrap事業 目指すは、圧倒的世界No.1
E-Scrap集荷の世界シェアNO.1企業のプレイヤーとして市場の最前線に立つ。


【参考)ROUTE06 お問い合わせ先】


注)本記事の内容は三菱マテリアルの関係者の許可を得て掲載されせていただいております。


弊社のプレスリリース本文内にて、お二方に大変ありがたいメッセージをいただいたため、こちらにも転載させていただきます。

三菱マテリアル株式会社 執行役常務 金属事業カンパニープレジデント 酒井 哲郎氏
当社は、B to Bのビジネスが中心で、特に金属事業カンパニーの主要製品は、一般の方には馴染みのない非鉄金属や化成品です。事業の歴史は長く、これまでは特定のお客様との長期的な売買が主でした。一方、E-Scrapのお客様は、事業規模、地域、事業への参入の時期など、多種多様です。そのため、お客様と当社を繋ぐインターフェースである「MEX」は、間口が広く、操作性が良く、親しみがあるデザイン性で、かつ、使い易いものでなければなりません。今回のプロジェクトでは、このコンセプトとROUTE06社のミッション「リアルとデジタルが滑らかにつながる会社をつくる」がうまくマッチしたものと考えております。「MEX」を入口として、より多くの方にご参加頂き、E-Scrapビジネスの拡大、ひいては業界の発展に貢献できることを願っております。

三菱マテリアル株式会社 最高デジタル責任者(CDO) 亀山 満氏
「MEX」には、MMDXの「一番槍」として具体的な成果を示すことで、MMDX全体を加速させるという大きな意味があります。両社が目指す姿を共有しつつ、当社の長い歴史の中で培った知見とROUTE06のフレッシュな視点が一体になったこと、これも”多様なOne Team”を目指すMMDXの具現化として大きな成果だと思います。フルリモートでのスピード感ある動きをリードしつつ、現場の一人ひとりの想いを捉えて進めていただいたROUTE06に感謝いたします。


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