ROUTE06の信託型ストックオプションについて
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ROUTE06の信託型ストックオプションについて

ここ数年でスタートアップの労働環境は大きく様変わりした。ひと昔前に比べて、創業期に生活費を限界まで切り詰めながら働くような起業家の話を聞くことも少なくなったように思う。資本市場におけるテック銘柄への相対的評価の高まりなどにより、スタートアップの資金調達規模が大きくなったことも影響しているが、人事・労務・ITインフラなどの知見の共有が進んだことも大きい。先人たちの無数のチャレンジと努力が、スタートアップのエコシステムに厚みをもたらす結果に繋がってきたのではないだろうか。

この論点については10Xの山田さんの記事が大変わかりやすい。

ストックオプション(以下、SO)をはじめとしたエクイティインセンティブ制度(株式、ストックオプション、株式連動型報酬など)も随分と多様化してきた。数年前までは比較的フォーマット化されている従業員向け税制適格SOですら発行に一苦労だったのだが、より複雑な有償SOなどを目にすることも珍しくなくなった。従業員はよりフェアなリターンを期待し、経営者もより従業員に報いるように努めた結果として、選択肢が増えていくことは当然かもしれない。

特に最近は信託SOを組成するスタートアップが増えているように思う。前回起業したときにはこのような制度は存在していなかったと記憶している。信託SOは最も複雑なSOの一つであり、その仕組みについては実績のある支援会社や弁護士や税理士などの専門家の方々のコメントや記事などを参考にしていただきたい。

少し前置きが長くなったが、この記事ではROUTE06(ルートシックス)で組成した信託SOの経緯や概要についてご紹介したい。信託SOの税務・法務的な解説記事は散見されるが、具体的な配賦ルールについての解説は少ない。弊社で働くことに興味がある方々、信託SOで迷っている起業家の方々に、少しでも参考になる情報を提供できればと思う。

信託SO組成の経緯

前提としてSOは株式上場を計画する会社にとってメリットの大きいエクイティインセンティブ制度であり、ROUTE06も上場を目指すスタートアップ企業である。上場を目指す背景としては、法人としての信用力を得ることやエクイティを活用したM&Aや長期投資の実施などいくつかあるが、成長性/収益性/安定性の高い事業を生み出し、公開企業として企業価値を顕在化させることによって、新しい富の創出と再配分を実現したいと考えていることも大きい。ROUTE06という会社が大きくなるほど、未来への選択肢が増え、将来に対して前向きになれる人達が少しでも増えてほしい。

そのため、従業員や役員には可能な限りアップサイドの大きいエクイティインセンティブを設計したいと考えており、創業前から信託SO以外にも様々な制度の導入を検討してきた。従業員持株会や組合組成なども考えていたこともあるのだが、よりたくさんの社員に、より大きなリターンを提供できる手段を探求した結果、信託SOがベストであると考えた。

以前経営していたスタートアップでも税制適格SOを何度か発行したことがあるのだが、租税特別措置法に定められた税制適格要件を満たすための条件が多く、また資金調達をする度に時価総額に比例して行使価格が上がっていったり、発行・付与に都度株主総会決議が必要になるなど様々な課題を感じていた。

それに対して、信託SOは税制適格SOに比べて配賦ロジックなどを柔軟に設計できるなど様々なメリットがある。最も注目すべきはSOの行使価格を発行時点の株価のままずっと固定できる点だ。資金調達を重ねて会社の時価総額が上がった後に入社した社員にも、権利行使価格の低いSOを付与することが可能になる。つまり組成時期が早ければ早いほど、後にSOを付与される社員にとってもリターンが大きくなる。そのため、ROUTE06では会社設立直後、シードの資金調達前に初回の信託SOを組成している。

ただし、信託SOはスキームが複雑であることから実績のある専門家の支援が必要となり、発行及び運営コストが相応にかかる。プロダクトや事業の実態がない創業期に、多額の費用と手間のかかる信託SOを組成することはリスクでもあるため、投資家や株主の方々の理解が必須となる。

第一回信託SOの設計思想

さて、そのような経緯から組成したROUTE06の第一回信託SO制度であるが、主に以下の3点を重視した設計になっている。

1. 制度の透明性

信託SOをはじめとしたエクイティインセンティブの付与ルールは、個人の資産形成に関わるためどうしてもブラックボックスになりがちであるが、可能な限り公平かつ透明なものにしたいと考えていた。そのため、インセンティブ付与ルールを公開するだけでなく、恣意的な判断が入りにくい設計にしている。

一般的に信託SOの場合、信託期間満了後に対象者へのSO付与数を算出するための基準としてポイント制度が採用されていることが多い。最終的な信託期間満了まで付与ポイント数や付与SO数が確定しないなど、そもそもの仕組みが複雑ではあるが、SO付与の根拠となるポイント計算基準は発行体が柔軟に設計可能である。

ポイント計算基準は各社多様に設計されているが、ROUTE06の第一回信託SOにおいては主に「1. 入社時点」「2. 職位」「3. 勤続年数」が基準になっている。恣意性が入る余地をできるだけ無くし、従業員をはじめとした付与候補者にとって分かりやすい制度にしており、詳細は社内でオープンに閲覧可能な状態になっている。

2. 付与基準の合理性

報酬に関しては様々な考え方や手段(金銭/役職その他)があるが、エクイティインセンティブの多寡に関しては、その人が取ったリスク量に連動するべきだと考えている。定量的にリスクを算出することは難しいが、信託SOのポイント制度ではそういった思想を反映させたものになっている。

基本的にスタートアップにおいて従業員が負担するリスクとは、会社全体の財務的な安定性および信用力、従業員個人の責任範囲の大きさなどに収斂されると考える。当たり前の話ではあるが、シード期に近いほど会社の行く末は不透明であり、社員にとってはキャリア選択上のリスクが大きい。また役職が高いほど、結果やプロセスに対する責任も広く大きい。

そのため、ROUTE06の第一回信託SOのポイント制度では、「1.入社時点」と「2.職位」による付与ポイント数が比較的大きくなっている。特に「1.入社時点」の重みが大きく、創業初期に入社した一般社員の付与ポイント数が最終的に上場直前に就任した役員以上になることも理論的にはあり得る。

またROUTE06の第一回信託SOでは全社員が付与対象となっていることに加えて、途中退職した社員であっても在籍期間に応じたポイントの付与の可能性がある仕組みにもなっている。

付与ルール

3. リターンの最大化

リターンの最大化については、信託SOの設計で最もこだわった点でもある。そもそもSOの最終的なリターンは換金時の株価次第にはなるが、株式の仕入値となる権利行使価格が低ければ低いほど、SO保有者の利益幅が大きくなる。

ROUTE06の第一回信託SOは会社設立直後に組成しているため、その権利行使価格は会社設立時の株価水準に固定されている。SOの権利行使価格を限界まで低く抑えるため、あえて設立資本金も100万円と少額にした。上場時に市場でどのような株価が付いたとしても、SO保有者は創業者たちの取得価格(設立時株価)と同じ株価で自社株を手にすることができるのだ。これはただの参考値であるが、日本の新興市場(マザーズ、ジャスダック)のIPO直後の時価総額の中央は100億円前後とも言われているため、単純計算すると約1万倍の期待値だ。

またROUTE06の第一回信託SOでは、その組成時にオプションプールの基準値と言われる潜在株式の10%相当を発行及び信託している。最終的な付与数に関して信託終了までは確定しないのだが、資金調達を重ねて時価総額が上がる前に、少しでも権利行使価格の低いSOがより多くの社員に付与されるように善処した。

加えて、SOの権利行使においてベスティング等の条件を設定しておらず、例えば株式上場から1年後に信託満了となった際にはすぐに株式取得が可能にもなっている。詳しくはご説明できないが、M&A等も信託期間満了及びSO付与のトリガーにもなりうるように設計しており、組織再編などのイベントが発生したとしても、貢献してくれた社員や関係者の方々にはできるだけ有効なSOが付与されるスキームにもこだわった。

個の選択肢が広がる会社を目指して

上記のように独自の付与ルールにもかかわらず、役員のなかで意見が分かれることもなく、信託SOの組成を決めてからポイント規定の運用開始まであっという間だった。SOに限らずなのだが、たとえ前例のないかつ不可逆な論点でも、思想を明確にして意思決定から実行するまでのスピードがとにかく早い経営チームである。

今回ご紹介した信託SOは全社員共通の基本制度の一つに過ぎず、追加組成や別のエクイティインセンティブ制度なども積極的に導入していく。また今後どのような仕組みを検討するにしても「1. 制度の透明性」「2. 付与基準の合理性」「3. リターンの最大化」を重視していく方針だ。

国内外のスタートアップの事例に限らず、上場企業等の最新のインセンティブ制度などにキャッチアップしていきたいと考えており、ぜひ多様な立場の方々と情報交換をさせていただきたいと思っている。

またROUTE06に入社を検討されている方で、本件に限らず、社内制度などにご関心がある方については弊社の採用担当にお気軽にご連絡ください。


注意)ROUTE06ではポイント規程においてその計算基準を明記しているが、信託期間満了時に金銭信託契約書及びポイント規定の定めに従ってポイント付与数が確定するまでは、ポイントの被付与者が信託の受益者となること又は被付与者が受益者となった場合の受益権及び本新株予約権の個数を保証するものではなく、また何らかの確定的な権利又は利益を有するものではないことを留意いただければと思う。


参考)ROUTE06の直近の取り組み




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CEO@ROUTE06(ルートシックス)。経歴:日本政策投資銀行、ドリームインキュベータ、スマービー(Founder&CEO, acquired by stripe-intl)、ストライプデパートメント(取締役 CPO&CMO)、デライトベンチャーズ(EIR) 。東北大院卒。