【紹介】フィルタについて3
この小説の舞台になっている会社は、作家にとっては人物造形の宝庫ではないだろうか。
いまふとそう思った。
A君というメンバーがいた。
見た目はどうしようもないアキバのオタクに見えるのに、プログラムを作らせたら、とんでもない天才。
しかも責任感もある。「フィルタについて2」で語ったZ君の部下に当たる。さすがのZ君もA君にはとやかく言わなかった。と言うか、仕事に関してはA君にツッコミどころはほとんどない。
どんなに辛いミッションでも、ひとたび取り掛かれば、文句ひとつ言わずやり通す。
入社して、A君を紹介してもらったときのこと。
どう見てもこの人仕事できないでしょ、というようないでたちで、昼過ぎくらいに出社してきた。
当然いままでの常識からすれば、「仕事できないやつ」となるのだが、A君は違っていた。
プログラムを作らせたら、だれよりもできる。頭の回転も速い。
人は見た目ではないんだなとつくづく思った。
飲み会の時に、A君と同じ九州出身であることがわかった。
翌日A君は私に会うと、嬉しそうに二次元キャラのプリントの入ったクッションを持ってきて、「〇〇たんとはいつも一緒に寝てるんです」と真面目な顔をして言う。
聞くところによれば、その二次元キャラ(と言ったら彼に怒られるけど、キャラの名前を忘れたので)の大きな抱き枕を持っていて、いつも抱いて寝ているそうだ。
そのことを嬉しそうに私に語るのだが、どんな顔をして聞けばいいのか、対応に困った思い出がある。
女子が聞いたらドン引きしそうな話だが、れっきとした事実だ。
オタクばかりの会社だったが、高学歴の人も多かった。
A君は高卒だそうなのだが、プログラミングに関しては、いわゆる難関大学を卒業したメンバーとは比較にならないほどすごかった。
A君とは年が離れすぎていたので、Z君のようにしょっちゅう話はしなかったが、私の敬愛する開発メンバーの一人だった。
そんなA君も今では結構な年になっている。
いま彼はなにをしているだろうか。
結婚して子供がいたら、本当に驚きなのだが。